
私の母は、見えないものを見る能力があるらしい。
普段はあまりそのことを口にすることはないが、時折、不可解なことを呟くことがあった。彼女が若い頃は、たびたび金縛りにあい、苦しんでいたと聞いた。その後、父と結婚したことでその体験は消えたらしい。
そんな母のいる家で、ある冬の夕方のこと。私たちは海辺にある古い小屋で過ごしていた。外は冷たい風が吹き荒れている中、母は暖炉の前で静かに釣りの道具を整えていた。
突然、母が叫んだ。「痛い!」
驚いてキッチンへ駆けつけると、彼女は虚空に向かって話しかけている。
「誰かが足を踏んでる!」
私が何が起こったのか尋ねると、母は少し困った顔をした。「ごめんね、実は今、あなたのおじいちゃんがここに来ているの。」
母は、祖父が私の父に会いたがっていると告げた。父は遠くに単身赴任中で、母はそのことを伝えなかった。翌朝、父が目を覚ますと、夢の中で祖父に会ったと言い始めた。
「おじいちゃんが夢に出てきて、僕を木の小屋に連れて行って、古い釣り竿を渡してくれたんだ。」
私と父はその釣り竿を見つけるため、祖父の家へ向かった。小屋に着き、祖母の許可を得て、物置を開ける。
埃まみれの中に、確かにその釣り竿はあった。父はそれを手に取り、涙を流し始めた。「おじいちゃんが、僕にこれをくれるって言いに来てくれたんだ。」
私たちはそのまま家に帰り、母に報告した。母は微笑みながら「おじいちゃんが喜んでいるわね」とつぶやいた。父はその場に祖父がいるような気がしたのだ。母の目にも、何かが見えていたのかもしれない。彼女は、その存在を見えないようにしていたのだろうか。私たちの心に、祖父の温もりが残っているように感じた。
そして、釣り竿を手にした父の笑顔が、その時の思い出の中で一番輝いていた。祖父の贈り物は、ただの道具ではなく、私たちを結びつける大切な絆だったのだ。
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