
「人形と目を合わせたくない理由があったんだ」 そう語り始めたのは、大学生の翔太だ。彼がまだ小学校に上がる前、親友の家に遊びに行った時の話だという。約20年前。彼は、古い町屋に住む友人の家で、特異な人形を見つけた。
その人形は、赤いリボンをつけた少女の姿をしていた。古びた陶器の肌に、光沢のある黒髪が映えていたが、翔太にはその人形が持つ不気味さが強烈だった。「その人形、目がじっと見てくるんだ。どんなに背を向けても、視線を感じる。」 友人は、母親からその人形を受け継いだと言っていたが、翔太はそれを触るのが怖くて、いつも近寄らなかった。
ある冬の夜、友人が「一緒に遊ぼう」と言ってきた時、翔太は仕方なく人形のいる部屋に足を踏み入れた。部屋の薄暗い灯りの中、彼はその人形がじっとこちらを見つめているのを感じた。 その瞬間、何かが動く音が背後から聞こえた。振り返ると、ガラス戸がゆっくりと開いていく。
「ごめんなさいごめんなさい」と小声で呟きながら、翔太は恐怖に震えた。音は近づいてきて、何かが彼の頭上で止まった。心臓が高鳴る中、彼は目を閉じた。気がつくと、朝の光が差し込み、友人の母親が台所で朝食の準備をする音が聞こえた。
急いで部屋を出た翔太は、恐怖を感じながらも何も言えなかった。
その日の夕方、友人が押し入れから何かを取り出そうとした時、突然、赤いリボンの人形が落ちてきた。「わぁ!」と声を上げる友人に、翔太は思わず口をつぐんだ。 友人は「夜になると動くことがある」と言っていたが、翔太はそれを信じることができなかった。
だが、翔太はその人形を持って帰ることにした。自分の家の押し入れにしまい込んだが、夜が明けると、何かが部屋の中で動く音が聞こえてきた。「お願い、動かないで」と心の中で叫んだ。
数日後、翔太の元に友人から連絡があった。「お母さんが人形を捨てたらしい。でも、また帰ってきたって。」 彼は何も言えなかった。人形の恐怖は、どこへでもついてくるのだ。
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