
高橋は、ある少女の幽霊にずっと守られていると言った。
彼がその事に気づいたのは、秋の夜のことだった。ビルの明かりが灯る街を酔っ払って帰る途中、ふと横断歩道で立ち止まった時だった。
赤信号を無視して渡ろうとした高橋は、思いがけず足を滑らせて転んだ。路面は湿っており、歩道には落ち葉が散らばっていた。酔いが回っていたため、彼は無防備な足元を気に留めなかった。
その時、後ろから迫る車の音が聞こえた。
あ、もうダメだ。
そんな絶望的な思考がよぎった瞬間、目の前に黒髪の少女が現れた。
彼女はセーラー服を着ていて、まるで高橋の前に立ちはだかるようにしていた。
すると、彼女が現れた途端、車は急ブレーキをかけて停車した。運転手は慌てて車を停め、冷や汗をかく様子が見て取れた。
「九死に一生を得たっていうよりも、ただただ不気味でな。何しろ彼女の顔は、知っている顔だったからさ。」
高橋はその後、警察から事情聴取を受けたが特に問題はなく、酔っ払いの軽い事故として済まされた。
それからというもの、高橋は何度も命がけの場面に遭遇した。その度に、セーラー服の少女が彼の前に現れ、彼を救ってくれた。
バーでの乱闘、工場の危険な作業、そして自動車事故。彼女が現れると必ず危機が回避されるのだ。
だが、彼はその少女が現れるたびに恐怖に襲われていた。
「俺を守る理由が全く分からないからさ。何を考えているのか、まったく理解できない。」
高橋が社会復帰を果たしたのは、約五年前のことだ。
それまで彼は、ある残虐な犯罪のために服役していた。罪状は強盗殺人。被害者は、当時の少女だった。
高橋を助けるセーラー服の少女は、彼が奪った命の持ち主と全く同じ服装をしており、死に顔そのものだった。
「俺が殺した時と同じ顔をしている。白目を剥き、舌を出して、泡を吹いている。その顔で、毎回俺を助けてくれるんだ。」
彼は何度もお祓いを考えたが、彼女がいなくなることを恐れて踏み出せなかった。
彼を死に至らしめた少女が、何故自分を守り続けているのか。高橋に心当たりがない以上、その理由を知る術はなかった。
後日談:
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