
中編
見てはいけない
匿名 2017年1月2日
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私の実家は、九州の田舎にあります。
中学校のころ、大会前で部活がかなり長引いて帰りが遅くなったことがありました。
街灯もそんなに多くはありませんでしたし、民家も畑や林の間にぽつぽつとあるだけで、夜になると足元も見えないぐらい真っ暗になってしまいます。
かろうじて開けた道には街灯がありましたが、その日は早めに帰りたくて近道を選びました。
そこは両脇を竹林に囲まれた狭い道で、私は地面に落ちた枯葉や木の枝を踏みながら歩きました。
私はないと思いつつも、ふと、「幽霊が出たら」「通り魔がいたら」などと考えて怖くなり、立ち止まりました。
そんなことがあるわけないんだから、怖いけれどあえて後ろを振り返って確認すれば何もいないことが分かって怖くなくなるじゃないか。
そう思ってちらっと後ろを振り返りました。
当然、幽霊なんていませんし、フードを深くかぶって手元に刃物をぎらつかせた不審者もいませんでした。
私は、ほっとしてまた歩き出しました。
ところが、足音がします。
私ははっとして後ろを振り返りましたが、やはり誰もいません。
自分の足で蹴っている葉の音を聞き間違えたのかな、と思ってまた歩き出しましたが、また音がします。
自分の歩く音とずれて、けっこうな距離をとったところで人が歩いてくる音がするのです。ただ、まっすぐな道なので誰かいれば見えるはずなのに、振り返っても誰もいません。
それに、私が足を止めている間は後ろの足音も止まるのです。私が歩き出せば、また、足音も歩き出します。
私はいよいよ本当に怖くなって、一気に林を抜けようと走り出しました。
足音は私と同じくらい、それか私よりも少し早いぐらいのスピードで後ろをついてきています。
(どうしよう追いつかれるかもしれない。追いつかれるって何に?何もいないはずなのに。どうして?)
私は疑問と恐怖で頭が混乱しながらも必死に走りました。
すると、急に視界が開け、明るいアスファルトの道に出ました。そこは家の近くの農道でした。両側を畑に囲まれてはいますが、街灯もあり家はすぐそこに見えています。
そのまま走って家の庭の前まで行くと、父が犬に餌をやっていました。汗だくで息を切らして帰ってきた私を見て、父が不思議そうな顔で声をかけてきました。
「そんなに急いでどうした」
「誰かが…」
気付けば足音は止まっていました。
私が反射的に今走ってきた道の方に目をやると、道のずっと向こう側、今抜けてきた林の入り口に白いものが立っているように見えます。
なんだろうと思って目を細めると、それは背の高い人間でした。それこそかなりベタな幽霊の出で立ちで、白い服に長い髪の人が立っています。ただ、横の土手の大きさと比較すると、本当にバスケットボール選手のように背が高くて、肩幅もあることが分かりました。
人口の少ない町でしたから近くに住んでいる人はみんな知っていましたが、同じ地区にそんな人がいた覚えはありません。
私はその異様なものから目が離せずに、立ち尽くしました。
その光景を見てさすがに変に思ったのか、父が近づいてきて私の視線の先に目をやると、一瞬大きく目を見開きました。
それからすぐ私の背を押して、早く家に入るようにと言いました。
それでも私が気になって、ちら、と道の方に目をやると、
「見るな。見ちゃいけないんだ。」と低い声で言い、私の手を引いて半ば無理やり玄関へ連れて行かれました。
そのあと家の中で父に問い詰められました。声を荒げて怒られたわけではありませんでしたが、どこか苛立っているような、不安にかられているような、そんな雰囲気でした。
「あの道は通っちゃいけないって言ったでしょう、どうして…」
「部活が遅くなって、早く帰らなきゃいけないって思ったんだよ…それよりあれはなに?知ってるの?誰?幽霊なの?」
父は私の問いかけに深いため息を一つついてから、こう答えました。
「分からないよ。ただ、お父さんも見たことがあるんだ。あそこの道には石が立ってるだろう。あれはお墓なんだよ。誰のお墓か、何があったか分からないけど。」
その後、その道を通らないようにときつく言われましたが、言われなくてももう二度と通る気はありませんでした。
父の話では、一定の間隔で追いかけてくるだけでこっち近づきすぎることもないし、あの林から出てしまいさえすればそれ以上は追ってこないそうです。
ただその道の入り口の前は、それからも通学や出かける時にどうしても通らなければならない場所で、林の中に目をやると、たまに白くて背の高い人影が立っているのです。
ごく稀でしたが、道の出口のすぐ側までそれが出てきていることもありました。
私はそんな時、父に言われたようにすぐに目をそらし、そのことを考えないようにしました。
私はもう長らく実家には帰っていませんが、帰れば、また目にすることになるんだと思います。
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