
私と弟が小学生の時の話だ。
その頃、私たちは長野の山間部に住んでいた。冬のある寒い夜、学校から帰る途中で、いつも通らないように注意されていた山の中腹の薄暗い道を選ぶことにした。弟が「少しだけ探検しよう」と言い出したからだ。好奇心が勝り、私たちはその道に足を踏み入れた。
進むにつれて、周囲は静まり返り、雪が静かに降り積もる音だけが響いていた。すると、ふと前方に、身長が高く、長い影を引きずるように歩く人影が見えた。顔は小さく、背中が異常に曲がっている。その不気味さに思わず立ちすくんでしまった。
私たちの視線を感じたのか、その影はこちらに振り向いた。まるでどこか遠くを見ているかのような目つきだった。恐怖で心臓が高鳴り、私は「こんばんは!」と叫んだ。すると、その影は何事もなかったかのように、ゆっくりと歩き去って行った。
家に帰ってから、その出来事を両親に話したが、誰も信じてくれなかった。あれから数年が経ち、弟は大学生になった。そんなある晩、彼から電話がかかってきた。あの時見た影が「山の女」だと話すのだ。
彼によれば、山の女は好奇心旺盛な子供をさらう存在だという。久しぶりにあの出来事を思い出し、背筋がぞくりとした。私たちがその女に気に入られなかったことが、今も生きている理由なのだと感じてしまった。あの道には二度と近づくまい。恐怖の記憶が、今も心の奥に潜んでいるから。
その後、弟の大学から帰る途中、彼は不運にも、あの道を再び通ったと聞いた。帰宅後、彼の様子が少しおかしかった。目が虚ろで、何かを見つめているかのようだった。私たちの家族が気を付けなければならないのは、彼が次にどんな影に出会うのか、ということだった。
その出来事を忘れないために、今も私たちは冬の夜に外に出ることを避けている。あの影が、いつかまた現れるのではないかと怯えながら。
そして、私たちは決して、その影を追いかけてはいけないのだ。
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