
短編
誰も気にしていなかった
匿名 2日前
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それが変だと思ったのは、駅のホームだった。
平日の昼、用事で仕事を抜けて出かけた帰り。人は少なく、ベンチも空いていた。
電車を待っている間、ぼんやりと反対側のホームを見ていたんだけど──
その中に、どうしても違和感のある人が一人いた。
うまく言えないけど、全体が“ぼやけて”いるような、
もしくは、服の柄だけが浮いて見えるような不自然さだった。
それだけでも気持ち悪かったけど、
その人はまったく動かないまま、同じ姿勢でずっと立っていた。
見た感じはごく普通。年齢も性別も判別できないくらい“何でもない”のに、
なぜか、見てはいけないものを見てしまったような感覚になった。
その電車には乗らず、ホームを移動した。
階段を上がって、下りて、もう一度そのホームに戻ってきたとき──
さっきの場所には誰もいなかった。
……と思っていたけれど、次の瞬間、
まったく同じ立ち姿の人が、今度は別の場所に立っていた。
やっぱり動かない。表情も見えない。
でも、それがさっきと同じ“人”だと、なぜか確信できた。
同じような服装でもなく、全然別人のように見えるのに、
「同じ人だ」と思わされた。変な話だけど。
怖くなって駅を出て、コンビニで時間をつぶしてから帰ることにした。
でも、その後、もう一度駅に戻ると──
こんどは自分のホームに、そいつがいた。
まったく目立たない場所。誰も気にしていない。
なのに、たまたま視線を向けると、そこに“いる”。
誰も見てない。スマホを見てる人も、ホームを歩いてる人も、
誰一人として、そこに“誰かがいる”ことを気にしていない。
自分だけが、何かを見つけてしまったような感覚。
その人影は、少しだけ首を傾けた。
気のせいかもしれないけど、見ていたのは、たしかに──こっちだった。
しばらくして、電車が来た。
発車のベルが鳴った頃には、その“人”はいなくなっていた。
……今でもたまに、
「そこにいて、誰も気づいてない誰か」の気配を感じることがある。
電車の車内とか、街の中とか、人ごみの中とか。
きっとあのとき、最初に気づいたせいなんだろう。
たった一度、目が合ってしまったせいなんだと思う。
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