
月明かりに照らされた公園のベンチに、若いサラリーマンの拓也は座っていた。遅くまで仕事をして、ようやく終わったと思ったら、ふと目にしたのは小さな屋台だった。寒空の中、屋台の明かりが暖かく、誘われるように近づいていく。ここは、いつも通る道なのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。
その屋台は、こぢんまりとしていて、薄暗いランプがひとつだけ灯っていた。女将は目の前に立ち、無表情で「ラーメンどう?」と声をかけてきた。拓也は少し戸惑いながらも、寒さから逃れたくて、頼むことにした。
「醤油ラーメン、特製スープで!」
女将は頷くと、手際よく具材を用意し始めた。屋台の中には、見たこともないような野菜が並んでいて、真っ黒なスープが煮えたぎっている。
「このスープ、特別なんだ。お客さんには絶対に教えない秘密のレシピよ。」
その言葉を聞いて、拓也は一瞬背筋が寒くなった。しかし、空腹には勝てず、ラーメンを口に運ぶ。
「うまい…!」
思わず声が漏れた。スープの味は独特で、深いコクがあった。体が温まり、疲れが一瞬で吹き飛ぶ。
しかし、食べ進めるうちに不思議な感覚が芽生えてきた。スープからは、まるで何かがこの世のものとは思えないような異様な香りが漂ってくる。
「どう?やっぱりおいしいでしょ?このスープには秘密があるの。」
女将の言葉に再び背筋が凍る。拓也は恐る恐るラーメンを見つめた。
「お前、スープの中に何が入っているか知ってる?」
女将が笑いながら言う。拓也はその瞬間、胸が締め付けられる思いがした。まさか、と思ったときには遅かった。
彼が見たものは、スープの中に沈んでいる小さな人形だった。
驚愕し、思わずラーメンを吐き出そうとした。だが、口の中にはスープの味が残り、目の前の女将がにこやかに見下ろしていた。 「好きだと思って、特別に入れてあげたのよ。」
恐怖と共に、拓也は思わず逃げ出した。寒い夜の公園を走り抜け、振り返ると、屋台は消えていた。暖かいスープの記憶だけが、心に深く残っていた。
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