
「先生、私、本当に不安なんです。」
小さな図書館の一室、薄暗い照明の中で、村上美咲は不安げに話し始めた。彼女は35歳の図書館司書で、いつも落ち着いた物腰をしていたが、その顔には焦燥感が滲んでいた。
「何が不安なのですか?」
目の前に座る心理学者の男は、白髪交じりの髪を撫でながら、美咲の目をじっと見つめた。彼は眼鏡の奥で冷静に彼女を観察していた。
「私が今ここにいることも、夢の中の出来事のように思えて……」
彼女は言った。その言葉に男は興味を惹かれたようだった。
「夢と現実、どちらが真実だと?」
「今朝、夢の中で私の元夫と娘が、私を責める声が聞こえてきたんです。彼らは私に、何かを隠していると言いました。」
「隠している?」
「はい。私は彼らを傷つけたことがあるんです。でも、それが現実なのか夢なのか、全くわからなくなってしまった。」
美咲は必死になって感情を吐露した。男は少し黙り込んでいたが、やがて口を開いた。
「あなたが実際に何をしたのか、思い出すことはできますか?」
「覚えていることはただ一つ、包丁を持っていたこと。」
その瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
「それが現実だとしたら、どうなるんでしょう?」
男は静かに頷くと、彼女に向かって言った。「あなたが今ここにいることは、確かに現実です。しかし、あなたの心の中に何があるのか、私は知りません。」
「私の心の中?それが夢と現実の境界を曖昧にしているのですか?」
美咲は不安そうに問いかけた。
「そう、あなたの心の中の恐怖が、現実を捻じ曲げているのかもしれません。」
その時、部屋の照明が突然消えた。二人は真っ暗闇に包まれ、男の声が響く。「今、あなたは夢から目覚める準備ができていますか?」
暗闇の中で美咲は、誰かの冷たい手が自分の腕を掴むのを感じた。恐怖が彼女を包み込み、彼女は叫び声を上げた。すると、何も見えないはずの真っ暗な空間に、明かりが差し込んできた。
「ここは……?」
美咲が目を開けると、彼女は自分の家の寝室にいた。時計は7時を指している。心臓がドキドキしていた。彼女は思った。夢だったのか、それとも現実だったのか?一瞬の静寂の後、彼女は娘の部屋へと向かう。
「起きて、遅刻するわよ!」と叫びながらドアをノックした。返事はない。ドアを開けると、そこには彼女の娘が無表情で横たわっていた。
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