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[謎の人形]
長編

[謎の人形]

むっちゃん 2015年8月21日
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ーーー 田舎で生まれ育った、ある少年の話。 その少年の実家には、絶対に入ってはいけないと言われている部屋があった。 そう言われると入りたくなってしまうものだ。 家の者が皆出かけていたある日、少年はこっそりその部屋に入ってみた。 入ってみると、それは何の変哲もない普通の部屋だった。 異様な空気が流れているわけでもなく、窓からは眩しいほどの光が入ってきて、ちっとも怖くない。 部屋を散らかされるのがイヤで脅していたんだなと、少年は思った。 部屋の中はポカポカ暖かく、気づいたら少年はその場で眠っていた。 数時間して、少年は目が覚めた。 金縛りにあったり怖い夢を見たわけでもなかった。 寝ているときも何も起きないなら、怪奇現象などは全くないと少年は確信した。 部屋を出るとき、少年は部屋にあったタンスの引き出しを何気なく開けた。 中には、雛人形を小さくしたような日本人形が一体だけ入っていた。 他の引き出しには着物が入っている。 なぜこの引き出しだけ人形が入っているのだろう。この小さな人形は一体なんだ? その人形をじっと見つめていた少年は、今までにない恐怖を感じたのだった。 後になって、少年はその部屋について祖母に聞いてみた。 その部屋は少年の父親の妹、つまり少年の叔母が使用していた部屋だったらしい。 現在の家は30数年前に二世帯で住めるよう改築している。 しかし、その時に少し庭を潰して増築したのがまずかったらしい。 その増築した場所に建っているのが『入ってはいけない部屋』、つまり叔母の部屋だったのだが、家を新しくしてから叔母の様子がおかしくなったというのだ。 まず初めの異変は、部屋で寝ることを叔母が嫌がったことだ。新しい部屋で寝るようになってから、どんなに熟睡しても夜中の3時に必ず目が覚めてしまうと言っていたそうだ。 目を開けると消したはずの電気が点いていて、枕元におかっぱの女の子が座っている。 不思議なことに、煌々と点いた灯りの下で、女の子の顔だけが真っ黒になっていて見えない。 しかし、なぜか叔母は少女が笑っていると感じ取ったそうだ。 そんなことが1週間くらい続き、不気味になった叔母はその部屋で寝ることを避けるようになった。 叔母は頭がよく頼れる人で、最初は家族にこのような不気味な思いをさせたくないと黙っていたそうだ。しかし、もう限界を感じて祖父(叔母の父親)に訴えたのだという。 しかし祖父は「嫁にも行かんでふざけたことを。それ以上言うなら出て行け」と突っぱねた。 それから半月くらい経ち、祖母はふと叔母の話を思い出したという。 近頃の叔母は何も言わなくなって、笑顔も見せるようになってきたから、もう新しい家にも慣れて怖い体験もしなくなったんだろうと思い、叔母に尋ねてみた。 叔母は笑顔でこう答えた。 「何も変わってないよ。だけどもう慣れたの。最初は女の子ひとりだったんだけど、今はもっと増えてる。みんなでずーっと私のこと見てるんだ」 そう言いながら、奇妙な笑い声を上げたのだ。 その姿は、いつもの物静かでおとなしい性格の叔母ではなかった。 叔母のその話が本当だったにせよ、夢や幻覚の類だったにせよ、この頃にはもう手遅れだったのだろう。 叔母の部屋の隣は祖父と祖母の部屋だったのだが、ある夜祖母は、叔母の部屋から聞こえてくる「ざっざっ」という穴を掘るような音で目が覚めた。 祖母はびっくりして隣の部屋に駆け込むと、部屋の畳が引っぺがされている。 そこには恐ろしい光景があった。 むき出しになった床下で叔母がうずくまり、素手で一心不乱に穴を掘っていたのだ。 「何やってるの!?」 祖母は思わず怒鳴った。 しかし、叔母には全く聞こえていないようだった。口許には笑みさえ浮かんでいた。 穴を掘り続けていた叔母が、しばらくすると「あった…」と呟き、床下から這い出てきた。 彼女の手に握られていたのは、土の中に埋まっていたものとは思えないほど綺麗な『小さな日本人形』だった。 叔母は祖母に人形を渡すと、そのまま笑いながらごんっごんっと自分の頭を壁にぶつけ始めた。 「どうしたの!」 祖母は慌てて止めようとしたが、叔母はすごい力で払いのける。 「本当だ…私は何やってるんだろう?私はさっき何をした?解らないわからないわからない…」 叔母は一瞬疑問に感じたようだったが、またすぐに異様な笑い声を上げた。 その声に混じって、祖母は聞いてしまったのだ。 叔母の笑い声とともに、何人もの重なった子供の笑い声を…。 叔母はそのまま10分以上頭を壁にぶつけ続けた。 最期は突然直立し、そのまま後ろ向きに倒れ込んだ。 「おもちゃみたいだった」と祖母は少年に言った。 何事かと起きてきた祖父が急いで救急車を呼んだ。 延髄だの脳幹だの頭蓋骨だのが、めちゃくちゃな状態だったそうだ。 祖母からの話と叔母の体を見て、信じられない様子で医者は述べた。 「本当に自分でやったのか。自分一人でここまでの状態になるのは不可能だ」 娘をみすみす死なせてしまった後悔が祖父を苦しめ、寺の住職にお払いに来てもらうことにした。 住職は、部屋に入った瞬間に嘔吐したという。 住職が言うには、ここは昔、水子や幼くして疫病で死んだ子供を祀るほこらがあり、その上にこの部屋を作ってしまったために、ものすごい数の子供が溜まっているということ。 「絶対にこの部屋を使っては駄目だ」 住職はすごい剣幕で念を押した。 祖母は住職に例の人形の供養をお願いしたが 、 「持って帰りたくない。中途半端なお祓いをしてもかえって逆効果だ。棄てるなり焼くなりしてしまいなさい」 と拒否されてしまった。 祖母は棄てるなり焼くなりしようとしたが、ゴミに出したはずの人形が部屋のタンスに戻っていたり、燃やそうとしても全く火が点かず、飛んだ火の粉で家族が火傷したりと、信じがたいことばかり起きた。 そこで祖母は仕方なく、とりあえず元の場所に埋め戻して、部屋には絶対入らないようにしたのだという。 あまりに悲惨な話で祖母も思い出したくなかったため、幼かった少年には今まで話したことがなかった。 「とりあえず、元の場所に戻したのが良かったのか、人形はそれっきりなんだよ。また出てこなければいいけどねえ」 少年は心の中で呟いた。 「また出てきたよ、おばあちゃん」

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