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長編

勘違い その参

つなか 2020年12月8日
怖い 234
怖くない 187
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ある日、クラスの人気者、さおりちゃんが突然話しかけてきた。 「ねえユウくん。ちょっと相談したいことがあるんだけど、明日私のお家で聞いてくれる?」 「えっ。ああ、うん!えっ!お家で!?別にいいけど!今じゃダメなの?」 (余計なこと聞いちゃったーーー) 「うん。周りに聞かれたくないの。」 「わ、分かったよ!俺で良ければ是非!!」 周りがざわついている。それも無理ない。 だって、俺みたいなやつに「あの」さおりちゃんが話しかけてんだから。 さおりちゃんは成績優秀、なかなかの美人さんで、とっても優しいクラスのマドンナ。 んまぁ、周りから相談相手として少しは頼りにされてる俺だし?たまにはこんなご褒美あってもいいよな〜〜 しかし恋の始まる瞬間って本当に突然なんだな〜うっへっへっへっ 「じゃあユウくん。また明日の放課後ね。」 さおりちゃんは、スクバを肩にかけると、教室を後にした。 なんだか俺も恥ずかしくなって、後を追うように教室を出た。みんなの視線が熱いぜ〜 明日は最高の1日になるぞ〜♪ グーっと背伸びをした。 家に帰ってから俺はみっともないニヤケ面を家族に振りまき、「女の子との上手な会話方法」「失敗しない2人きりの会話集」などなど、ネット上の情報をかき集め、念入りな調査を開始した。妹はその様子を見て気持ち悪がっていたが、そんなの気になんねえ。 そして最高のコンディションでお届けしたいと9時には布団に入った。 翌日、さおりちゃんはお休みだった。 恥ずかしさと悲しみ、この2つの感情が頭の中をこれでもかとグルグル回って、とても辛かった。 誰かがクスクスと笑う。そりゃそうだ、今日は普段付けもしないワックスを盛り盛りに付けてるから。この場から消え去りたかった。 地獄のような1日が終わり、校門を出ようとした時、前方15メートルほど先に、まるで砂漠に咲く一輪の花のように、さおりちゃんが誰かを待っていた。 待ってましたよこの瞬間(とき)を。 俺は周りの奴らに聞かせてやるように、 「さおりちゃーん!お待たせー!」 と言い放ってやった。 さおりちゃんはニコッと笑うと、 「ユウくん。ごめんね今日学校行けなくて。」 さおりちゃんはどこか悲しそうな顔をしている。 「どうかしたの?大丈夫?」 「ううん。大丈夫。そしたら行こっか。」 20分くらい歩いて、さおりちゃん家に到着した。5階建てのアパート。エレベーターホールはホテルのようだった。さ、さすがはマドンナの居城… エレベーターに乗ると、さおりちゃんは5階のボタンを押した。 エレベーターが開き、506号室の前で立ち止まると、さおりちゃんはスクバから鍵を出し、扉へと差し込んだ。 「お邪魔しまーす。。」 「パパもママも仕事でいないの。さ、上がって」 さおりちゃんは、廊下の突き当たりの部屋に案内してくれた。ここが彼女の部屋なんだろう。部屋にはいちいち可愛い装飾が並んでおり、初めて入る同級生女子の部屋に興奮を隠しきれなかった。 ふとベットの横に目をやると、綺麗な鳥籠の中に一羽の文鳥がいた。出来ることならこの文鳥になりたい。。なんて思っていると、さおりちゃんがお茶を持ってきてくれた。 そしてちょこんとベットに座ると、こんなことを聞いてきた。 「ねえユウくん。私ってどんなイメージ?」 突然の質問に焦ったが、冷静さを装って、 「クラスの人気者、かな〜」 かな〜じゃねえよ!!!とすかさず自分にツッコミを入れる。落ち着け。お前ならできる。焦るなー。 さおりちゃんはニコッと笑うと、籠から文鳥を取り出し、手に乗っけて頭を撫でながら重そうに口を開いた。 「あと少ししか生きられないの。可哀想でしょ?」 「そうなんだ。。もしかして病気?」 「そう。お医者さんが言うんだもの。間違いないわ」 すると文鳥は俺の手に乗ってきた。 鳥が少し苦手だったが、さおりちゃんのペットフィルターが掛かって、全然平気だった。 「ユウくんに懐いちゃったみたい。」 「人懐っこいの?」 「ううん。全然。きっとユウくんの優しさを感じ取ったんだね!なんか安心する。」 あはははは 部屋に広がる幸せな空気。この瞬間が一生続けばいいのに。そう思った。 それから時が経つのを忘れて、話し込んでしまい、もう外は暗くなっていた。 「いけない!暗くなっちゃった!これじゃよく見えないかな〜…」 「だ、大丈夫だよ!子供じゃあるまいし!1人で帰れるから!」 玄関先でさおりちゃんは、 「今日はありがとうね。ユウくん。お陰で吹っ切れたよ。私やっぱりユウくんのこと好きだったみたい。」 「え!?あ、ありがとう!てかこちらこそ遊んでくれてありがとうね!お邪魔しましたーー」 そそくさと帰ろうとする俺に向かってさおりちゃんは言う 「ユウくん。これからも一緒に居てくれる?」 「も、もも、もちろん。俺で良ければずっと一緒に居るよ!!じゃ!また明日!」 込み上げる恥ずかしさと嬉しさが俺を早歩きにし、名残惜しく1人でエレベーターに乗った。神様。あれは告白ってことでよろしいでしょうか。 楽しかったさっきまでの記憶を呼び起こす。 あれ?てか結局、さおりちゃんの話したかったことってなんだったんだっけ。思い返してみるも、たわいもない会話しかしてないことに気づく。まあそんなことどうでもいいか〜きっと俺とお話しするための口実だったんだよ、と考えることにした。 エレベーターが開き外に出ると、冬の冷たくも新鮮な空気が鼻から肺に入る。 一歩立ち止まって、いつもの様にグーーっと背伸びをし、明るい未来へと歩き出した。 ドチャッ 目の前に何かが落ちた。 エレベーターホールの明かりに照らされ、落ちて来たものが人間だと分かった。 かつてさおりちゃんだった「ソレ」は、首の骨が折れているのか、キューキューと空気の漏れる音を出し、俺を睨んでいた。 あと少し前に出ていたら、完全に俺にぶつかっていた。 頭の中が真っ白になり、何かを考えようと脳を回転させると、さおりちゃんとの会話がフラッシュバックし始めた。 「あと少ししか生きられないの。可哀想でしょ?」 「ユウくんに懐いちゃったみたい。」 「きっとユウくんの優しさを感じ取ったんだね!なんか安心する。」 「いけない!暗くなっちゃった!これじゃよく見えないかな〜…」 「今日はありがとうね。ユウくん。お陰で吹っ切れたよ。」 「私ユウくんのこと好きだったみたい」 「ユウくん。これからも一緒に居てくれる?」

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