
長編
誰だったのでしょうか
匿名 2024年2月10日
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長文になりますがお付き合いください。
私が小学生の頃、もう30年以上も昔の話になります。
当時私はF県にある実家で両親、姉と4人で暮らしていました。どこへ行くにも車が必要な地域でしたので車を停められる広さの庭、母が守っていた畑。釣り好きな父の物置兼ガレージ。家は二階建ての木造建築。家の周りは青々とした田んぼが広がるごく普通の田舎町でした。
夏休みが終わり新学期の慌ただしさも落ち着いてきた10月初旬ごろだったと思います。
その日私は学校が休みで、二階にある自分の部屋にこもり漫画を読んでダラダラと過ごしていました。
今ほど暑くないとはいえ日中の日差しはやはり気力を奪います。勉強をする気にもなれず床に寝転がっていた私は、ふと耳を澄ませました。
ガタガタ、カシャン
隣の姉の部屋からです。机の引き出しを開ける音、何かを拾い上げるような音。がちゃがちゃと何かを探しているようにも聞こえました。私は何気なく
「お母さん?」
と声を掛けました。その日、中学生だった姉は修学旅行で東京に行っており留守だったのです。
父は仕事、家にいたのは私と母だけでした。音は止まず、ガチャガチャという音が徐々に大きくなっていきます。苛立ちが伝わってくるような雰囲気に、
「何してんの?」と再度、少し大きな声で呼びかけました。返事はなく、何かを探すような音だけが続いています。何かおかしい。そう思って身体を起こした時、ただいま、という声が階下から聞こえました。
え?
隣の部屋の音がぴたりと止みました。
階段を上がってくる音と共に、恵子、寝てるの?と母の声が聞こえました。
どういうこと?お母さんじゃなかったの?
さっきまで聞こえていた音は?
顔を覗かせた母にしどろもどろになりつつこのことを伝えてみましたが、笑いながら、誰もいないわよ、と取り合ってくれません。2人で隣の部屋のドアをノックしゆっくりとノブを引きます。
誰もいないどころか部屋が荒らされたような形跡もなく、机の引き出しもきちんと閉まっていました。
「寝ぼけてたのよあんた。勉強して目を覚ましなさいよ」
そう言い残し階段を降りていく背中を見つめたまま、私はその場から動けませんでした。
それから何もなく月日は流れ、私は28歳になりました。東京で就職、結婚を経て、3歳の娘と一緒に実家に帰省したある夏のことです。
夜ご飯を終え、二階にある自分の部屋に娘を連れて行き、ベッドに寝かせました。娘ははしゃぎ疲れたらしく5分もしないうちに寝息を立て始めます。
私も娘の横に身体を横たえ目を閉じました。
深夜、物音で目を覚ましました。
ガタン
眠気がスッと覚めていきました。
ガチャガチャ、ガチャガチャ
ゴツッ
ガチャガチャ
心臓が早鐘を打ち始めました。10年以上も昔の記憶が一瞬で蘇ります。
姉が結婚してこの家を出てから、隣の部屋はほぼ物置状態でした。
絶対に誰も居ないはずの部屋から聞こえる音。
怖い怖い!!たまらずベッドから飛び起き、はっとしました。
娘がいない。
もうなりふりかまってられません。勢いよく部屋のドアを開け飛び出した私は廊下に目をやり固まりました。
娘は姉の部屋の前に立っていました。
◯◯ちゃん?
呼びかけても返事がなく、こちらに目も向けません。
◯◯ちゃん!!大声で呼びかけ肩を掴みました。
娘はゆっくりと私の顔を見上げ、ママ、と小さく呼びました。
女の子が待っててって言ったの。
女の子?
お耳とお目目のない女の子。
え?
お耳がないから私の声は聞こえないけど、お話はできるんだって。
いいもの持ってくるから待っててって言ってたよ。
このお部屋にあるんだって。
それ、誰?
んーん、知らない。でもママのお友達って言ってたよ。
ママそんな子知らないよ。怖いからお部屋戻ろう?
戻ったらだめだよって言ってたよ。
約束破る子は私みたいにお耳を取られちゃうんだよって。
だから待ってるの。いいものってなんだろう?
◯◯ちゃんお人形欲しいな。
娘はケタケタと1人で笑っていました。
私はその場で気を失いました。
翌日、私は自分のベッドの上で目を覚ましました。
隣では娘が眠っていました。
あれは夢だったのだ、そう言い聞かせ残りの2日間を過ごしました。
そして東京に帰る日、まだ遊びたいと駄々をこねる娘を宥め荷物をまとめます。
明日からはいつもの日常が戻ってくる。慌ただしくも平和な毎日が。
さあ帰るよ、ばあばにありがとう言おうね、と娘を説得し部屋を出ました。
2人で手を繋ぎ階段を降ります。
いーち、にーい、と声を掛け慎重に。
階段の半ばまで来た時、ふっと私の身体が宙に浮きました。
あ、と思った瞬間、とっさに握っていた小さな手を離しました。
娘をその場に残し階段を転げ落ちました。
腰を打ったようです。痛みを堪え顔を上げると、居たんです。
踊り場に知らない女の子が。
耳と目がない。顔もよく見えない。でも赤いスカートと白いTシャツで女の子と分かりました。
娘の泣く声と大きな音に驚いた母が飛んできた時には、その子はいなくなっていました。
古い家には座敷童がいると言いますが、似たようなものだったのでしょうか。
娘も大きくなり、当時のことは覚えていないそうです。
私も夢だと思いたいし忘れてしまいたい。でもあの時、階段から落ちた時。
後ろから突き飛ばされた手の感覚だけは今も生々しく残っています。
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