
「この部屋はおすすめできませんね。」
高層ビルのロビーに掲示された不動産屋の看板を見上げ、私は興味を抱いた。
「空いてるのは空いてるんですが…」
不動産業者は言葉を濁した。
「他の物件もありますが、こちらは駅に近いですし、広さも同じで、セキュリティも充実していますよ。」
でも、私はこの部屋が気に入ってしまった。
「構いませんけど、内覧はされますか?」
内覧なしで、部屋の間取りや設備、日当たりの良さまで把握している。
「もう契約する気ですか?実は少しお話ししにくいのですが……この部屋には以前住んでいた方がいて、その方、もうお亡くなりになっているんです。それでも大丈夫でしょうか?」
そのことも知っている。
なぜなら、私は彼女の姿をまた見たいからだ。彼女は私の心の奥に、今も生き続けているのだから。夜、彼女の遺影が部屋の隅で微笑んでいるのを幻視したのだ。彼女の存在は、今や私の唯一の支えだった。
契約を終えた後、私はその部屋に入った。静寂が支配する空間に、彼女の思い出が薄く漂っている。彼女の好きだった香水の香りが混じり、まるでまだここにいるかのようだった。
しかし、日が暮れるにつれて、不穏な気配が漂い始めた。夜が深まるにつれ、彼女の姿が次第にはっきりと見えるようになり、私を呼ぶ声が耳に響いた。思わず目を閉じると、彼女の温もりを感じた。
だが、彼女は私に何を求めているのか、わからなかった。私が彼女の元に行くことを望んでいるのか、あるいはこの世に留まることを選んでいるのか……。
彼女の顔を見た瞬間、全てが明らかになった。彼女は今でも私を愛し、私も彼女のためにこの選択をしたのだ。そのために、私はこの部屋を選んだのだと。
だが、彼女が私を受け入れる準備はできていなかった。彼女が消えてしまう前に、私は彼女に手を伸ばす。冷たい手が、私の心を貫く。
ああ、彼女は私を見つめている。目が合った瞬間、私の心は静寂に包まれた。彼女はただ私を待っていたのだ。私の心が完全に彼女のものになったとき、私は彼女の側に立っていることに気づいた。彼女の微笑みの中には、もう一つの影が潜んでいた。
後日談:
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