
妻がいなくなってから、約一ヶ月が過ぎた。彼女がいない静寂の中、私は日々の家事をなんとかこなしていた。特に料理は苦手だったが、妻がいる時は一緒に作っていたので、何とかやっていけると思っていた。しかし、今や冷凍食品やインスタント食品に頼る生活が続いていた。食事は簡単なもので済ませ、毎日が無味乾燥なものになってしまった。
そんなある日、思い立って妻の得意料理である煮物を作ることにした。彼女が教えてくれた分量や調理法を思い出そうとしたが、どうしても詳しいことが思い出せなかった。インターネットでレシピを探し、必要な材料を揃えた。結局、2人分の煮物を作ることにしたが、間違って多く作ってしまった。残りは冷蔵庫に入れるつもりだったが、1人前だけを鍋に移して、一緒に煮込んだ。
煮物が出来上がると、熱々のそれをお椀に盛り付けて、テーブルに並べた。期待を込めて口に運ぶと、味が全く合わなかった。材料自体は悪くなかったが、妻の味とは程遠い。冷蔵庫に残した分をどうするか考えたが、今日はもう寝ることにした。
その晩、珍しく妻が夢に出てきた。彼女は台所で私の作った煮物を一口食べて、不機嫌な顔をしてこう言った。「一言で言って、まずい。」その瞬間、目が覚めた。時計は朝の5時を指していた。休日なのでゆっくり寝るつもりだったが、目が冴えてしまい、キッチンへ向かうことにした。
キッチンには、煮物が鍋の中で冷めている。
ああ、そうか、食べた後そのまま放置してしまったのか…。鍋を冷蔵庫に入れようとしたとき、異変に気がついた。鍋の中には、なぜか一口分だけがなくなっていた。私の心に不安が広がる。
リビングのカレンダーに目をやると、今日は妻の誕生日だったことを思い出した。彼女が好きだったケーキを買って、供えたら機嫌が直るのだろうかと考えた。心の中で彼女の存在を感じながら、私はその思いに浸っていた。煮物の味はどうでもよく、ただ彼女がそばにいることを願っていた。私の心に冷たい影がさまよっていた。
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