
長編
井戸の中
匿名 3日前
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で軽く会釈をすると俺の元へと歩み寄った。
「この度は、誠にご愁傷様さまです。……久しぶりだね、公平くん」
「……うん。久しぶり、河原さん」
親父の事などどうでも良かった俺は、それだけ答えるニッコリと微笑んだ。
「——きゃあーーっ!!!」
———!!?
突然聞こえてきた大きな悲鳴に、何事かと騒ぎの方へと視線を向けてみる。すると、人など殆どいない受付の横で、なにやら一人の女性が騒いでいる。
「……ごめん。ちょっと、行ってくる」
「あっ、うん。……また後でね」
(何なんだよ、一体……)
俺は面倒に思いながらも、河原さんを残して一人受け付けへと向かった。
未だに一人で騒いでいる女性に近付くと、「猫が! ……っ、猫が!」と地面を指差している。俺はその指先を辿るようにして、少し先の地面へと視線を向けてみた。
———!!!
(っ、……何だよ、これ……っ)
頭から血を流して横たわる黒猫を見て、その気持ち悪さに思わずたじろぐ。
その顔は原型をとどめぬ程にグチャグチャで、見ているだけで吐き気がする。
(なんて最悪なんだ……っ。どうすんだよ、この死体。俺が片付けなきゃいけないのか……?)
上から落ちて来たと言う女性の言葉に、俺は目の前の大木を眺めると大きく溜息を吐いた。
◆◆◆
「——公平。今、ちょっといいか?」
告別式も無事に終わり、部屋の片隅で食事をとっていた俺は、その声に視線を上げると声の主を見た。
するとそこには、昔の面影を残しつつも立派な大人へと成長した司と隆史がいた。
「……ああ」
面倒臭そうに答えた俺の態度を特に気にするでもなく、二人は俺の前に腰を下ろすと口を開いた。
「「あの時は……っ、ごめん」」
———!?
俺に向けて頭を下げる二人を見て、予想もしていなかった展開に面食らう。
(あの二人が……。俺に、謝るっていうのか?)
目の前で頭を下げ続ける二人の姿を見て、俺は一度小さく溜息を吐くとその重い口を開いた。
「……いいよ、もう」
(……何だか、拍子抜けだ)
そう思った俺は、それだけ告げると席を立った。
また何かしてこようものなら、どう鼻を明かしてやろうかと画策していたのだが、どうやらそれは杞憂《きゆう》だったようだ。
気分転換にと外での一服を終えると、俺は再び部屋の中へ戻ろ
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