
冬の夜、エレベーター内の冷たい空気が肌に刺さる。私の隣に立つのは、近所の若い夫婦、KさんとMさんだ。彼らは先日、旅行先の名物を買ってきたらしい。
「お土産に珍味の缶詰を持ってきたんだ!」とKさんが誇らしげに言う。Mさんは「これ、すごく美味しいよ!」と笑顔を見せるが、どこか不気味に感じられた。
「どんなものなの?」と聞くと、Kさんの表情が少し曇った。「ああ、これね、実は…」と話し始める。
「この珍味、特に毒性のある魚から作られていて、食べると少し危険なんだよ。だから、食べる時は気をつけてね。」
Kさんは続けて、毒魚の生態について語りだした。「ほら、普通の魚には毒なんてないけど、特定の環境で育つと毒を持つようになる。生態系の中で、まるでストレスが蓄積するように。」
話を聞いていると、彼の目が無邪気さから狂気に変わっていくのを感じた。エレベーターの中は静まり返り、冷気が増す。
「一匹の魚が、37人まで殺せるって知ってた?」とKさんは言った。私はその言葉に驚き、心が重くなる。彼は笑いながら話を続ける。「だから、釣り上げるのが楽しいんだ!危険なものを扱っている感じがたまらない!」
その瞬間、エレベーターが止まった。目の前にあるのは彼らのマンションのドア。Kさんは無邪気な笑顔を浮かべながら、「さぁ、これを家で食べてみて!」と缶詰を手渡してきた。
私はうろたえながら缶詰を受け取ると、彼の目がどこか光っているのを見た。彼は笑顔のまま、「毒に気をつけてね!」と呟いた。
エレベーターのドアが開くと、二人の姿はもう見えなかった。私は缶詰を持ち帰り、恐る恐る開けてみる。中には、珍味と呼ばれる魚が整然と並んでいた。だが、そこにあったのは、まるで人を襲うような光を放つ生き物の姿だった。
その瞬間、私は気が遠くなり、全ての音が消えた。まるで彼らの言葉が、私の心に深く刻まれたかのように。ようやく我に返ると、缶詰の中身が何かを訴えかけてくるようだった。私は恐怖に駆られ、もう一度その缶詰の中を覗き込む。
すると、そこには私を見つめる目があった。今度は彼らの笑顔が思い浮かび、背筋が凍りつく。私は再び、「なんてことを…」と思わず呟いてしまった。
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