
これは数年前の、まだ俺が大学生だった時の出来事だ。
大学二年の秋、仲間たちと一緒に静かな湖畔のキャンプ場へ行くことになった。日中は焚き火を囲んでバーベキューを楽しみ、夜になると星空の下で語り合う、そんな理想的な時間を過ごしていた。
その湖は、古くから人魚の伝説が語られている場所で、透明度の高い水面が静かに月を映していた。周囲は木々に囲まれ、夜の静けさが心地よく、時折風が吹き抜ける。
「おい、あの湖、ほんとに人魚が出るって話、聞いたことあるか?」と友人の健二が言った。
「……聞いたことはあるな。」
「確か、湖の底に住んでて、月の光の下で現れるって言うじゃん。」
そんな話を交わしながらも、俺は本気にはしていなかった。人魚なんて、ただの伝説だろう。けれど、月の光に照らされた湖面を見てみると、まるで何かが潜んでいるかのように思えて、少しドキドキした。
「どうする? 夜の湖に入ってみるか?」
健二が提案すると、周囲の仲間たちも乗り気になった。俺もその流れに乗り、みんなで湖に向かうことにした。冷たく澄んだ水に足を浸し、少しずつ深みに入っていく。月の光が水面を照らし、幻想的な雰囲気が漂っていた。
「お前、ほんとに人魚がいると思うのか?」と俺が聞くと、健二は笑って答えた。「まあ、会えたら面白いよな~」
そんな会話をしながらも、少しずつ奥へと進んでいく。水はどんどん冷たくなり、視界も次第に暗くなっていった。ふと、視界の端に何かが動くのを見た。
「おい、見ろ!」
俺は健二に指を差した。そこには、確かに人間ではない何かがいた。水面に浮かぶ月光の下で、長い髪をなびかせながら、優雅に泳ぐ姿。瞬間、心臓が高鳴った。
「……人魚だ!」
「な、なんだって!?」
驚いた健二の声が響く。俺はそのまま潜り、近づこうとした。しかし、彼女は水中でゆっくりと身を翻し、俺を見つめ返した。その瞬間、彼女の表情が引きつり、俺は急に不安を感じた。
「……直哉、やっぱり戻ろう!」と健二が叫んだ。
「いや、まだ近づきたい!」
興奮を抑えきれず、俺はさらに潜った。そして、彼女の目の前にたどり着くと、彼女は微笑んで手を差し伸べてきた。あまりの美しさに、心を奪われてしまった。
しかし、次の瞬間、彼女の姿が変わった。目の前にいたのは、白骨化した女性の干からびた姿だった。恐怖が全身を駆け抜け、俺は水面へと浮上しようとした。
「直哉! 助けて!」
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