
長編
魚の幽霊
匿名 2017年3月28日
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※この話はあまり怖くありません。
会社の同僚で地方からこちらへ出て来た、真島から聞いた話だ。
彼は飲み会の席に出された魚物の料理が出されると、毎回決まって箸を置く。
魚料理が苦手なのかと思っていたが、そのまま魚を捌いたり、開きや姿煮、塩焼きなどの状態で出されるのが苦手なのだ、という話を同期数名と飲んでいる席で聞かされた。
「何でそんなに魚苦手なの?食べれないわけじゃないんでしょ?」
「全然食べれる、むしろ海鮮系とかは好きな方だから」
「でも魚料理全然、手付けないよね」
「んー、魚そのものっていう感じの料理が苦手なんだよね、分かるかな?」
私は真島からその話を聞いて、よく魚の見た目(特に目玉など)がグロテスクに感じられ、苦手とする人がいるという話を思い出したが、どうにもそういう訳ではないらしい。
「何でそこまで魚の見た目に拘るの?」
「んー、見た目というか、子供の頃、ウチに魚の幽霊が来た事があるからさ、何か怖いんだよね」
真島は巫山戯たように誤魔化していたが、幽霊という言葉に私は心が惹かれた。
昔から人づてに聞く怪談や怖い話が好きな事を真島に伝え、もしよかったら聞かせてもらえないだろうか、とお願いすると彼は特に悩みもせず話してくれた。
「実際に俺が見たわけじゃないんだけどね、うちのお母さんが少し霊感?みたいなのがあってさ」
と、語り始めた真島の話をまとめると以下のような形になる。
真島はその頃、小学三年生となり近所の河原に学校の友人数人と連れ立って遊びに行っていたらしい。
地元では公園や学校の校庭、河原や山など外で遊ぶ事が多く、もっぱらその当時は子供達の間で釣りが流行っていたそうだ。
真島達も数人で釣竿を持って川の流れが比較的緩やかで、深さもそこまでない所で釣りをしていた。
釣った魚はその場で逃すか、解剖と称してその場で捌いていたそうだ。
「子供の頃だったから、なんて言うか、そう言う生き物の仕組み?みたいなのに結構興味があって、皆で魚囲んで腹切ったりしてたんだよね」
子供なりの無邪気な残酷さだが、その時は真島達は誰もそれを悪い事などとは思っていなかった。
友達が家から果物ナイフを持って来て、それを使って魚を捌いていたそうだ。
そして何匹目かの魚を捌いていると、河原の対岸にいた釣り人らしいおじさんが寄ってきて、真島達に少しきつい口調で怒ったそうだ。
内容は定かではないが、生き物の命を簡単に奪ったらいけない。自分がやられたら嫌だろう、というような事を言われたらしい。
真島達は何と無くおじさんの言わんとする事を察し、魚を捌くのをやめて粛々と反省した。
そしておじさんは真島達が捌いて放ったらかしにしていた魚の死骸を集めて、それを川に流した。
真島達はそのあと公園で少し遊んでから、それぞれの家に帰ったらしいのだが、真島が家に入るなり母親が来て顔をしかめた。
「アンタすごい生臭いんだけど、何処で遊んで来たの?」
そう言われ、真島は自分の服の臭いを嗅いだが母が言うほどの悪臭はしなかった。
その時、川で遊んでいた事は伝えたが、おじさんに怒られた事は言わなかった。
何と無く幼心に母親からも怒られると思ったそうだ。
実際、自分の子供が遊びで魚をやたら捌いていたりしたら、普通の親ならちょっと眉を顰める。
だから真島は魚の事は黙って、そのままお風呂場で体を洗い、衣服を着替えに行った。
そしてシャワーを浴びていると、玄関の方から母親が怒鳴り散らす声が聞こえて来て、驚いたと言う。
慌てて着替えを済ませてそちらに行くと、肩をいからせた母親と廊下ですれ違い、その場で頭を引っ叩かれた。
「アンタ何 変なもん連れて来てんの!!玄関がすっごい生臭くなっちゃったじゃない!!」
訳が分からず真島が困惑していると、母親はそのままリビングに引っ込んで行った。
真島は玄関までおそるおそる確認しに行ったが、やはり母親が言うような生臭さは感じなかった。
代わりに、何故か玄関の上がりがまちがぐっしょりと水浸しにになっていたそうだ。
それから母親に詳しい話を聞くと、真島がお風呂場に行ったすぐ後、それを追うように例の生臭さが家の中に溢れたから驚いてそちらを見ると、水浸しの人影が玄関から上がろうとしていたらしい。
思わずその場で怒鳴りつけて追い返したが、人影はどうにも真島を追って来たらしい事を母親はその場で勘付いた。
そして結局、真島は母親に川で釣った魚を解剖して遊んでいた事を話して、こっ酷く叱られたそうだ。
「今なら別に何ともないんだけどさ、実際に俺が何か見た訳じゃないし。でも子供の頃だったから妙にそれから魚が怖くなったんだよね。トラウマみたいな」
と、真島は苦笑していた。
私は真島の話を聞きながら、その玄関に現れた人影が彼の言う魚の幽霊なのだろうか、と思った。
魚で遊んだ祟りとは、何と無く間抜けな話だが、当時子供だった真島からすればそれなりの恐怖体験だったのだろう。
何よりも、そんな不気味なものを前にしても動じない真島の母親の肝の座りようにその時は思わず笑ってしまった。
後日談:
- 子供の頃の体験はその後に影響してくる、という話をよく聞きます。 真島さんは結局二十数年経った今でも魚が怖くて仕方ないのだそうです…苦笑 怖い話ではありませんが、そんな事もあるんだなと思い投稿させて頂きました。
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