
長編
異世界に消えた中嶋
ヨシヨシ 2020年8月26日
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現在、投稿主は32歳だが、これは忘れもしない自分が小学三年生の夏の話。
その頃よくつるんでた高木と中嶋という友達がいた。
いつも3人で遊んでいたのだが、何もない田舎だったので大体遊ぶ場所は近所の駄菓子屋か、神社、学校の屋上のどこかだった。それでも、空気はきれいで遊ぶには申し分なく、毎日走り回って遊んでいたのを覚えている。
その日もいつものように、放課後、学校の屋上で、カードゲームをして遊んでいた。もちろん小学校にカードゲームなんて持ち込むと怒られるのでこっそりだけど。
そしたらその時、急に
サーーーーーーーーって音がしだしたの。
なんやなんやて騒いでるとすぐに夕立ちだと言うことが分かった。遠くにモヤがかかっていて、すぐに自分たちのいる屋上も雨が降り出すと察し、急いで自分のカードを片付けだしたのだが、夕立ちの音が近づいて来るにつれて
ゴーーーーーーーって音に変わった。
今で言うゲリラ豪雨ってやつ。それでもその時の自分たちは濡れる濡れるて騒いでた。
そしたら中嶋が近づいてくる雨のもやを見て
「なんかあの雨変やない?」
「何がよ、なんかあんのか(笑)」
みんなで近づいてくる雨の方を見ると、モヤが濃くよく見えない。それだけ雨が強いんやろうと思ったが、そうでもないらしい。
自分は目が悪くはっきり見えなかったのだが、高木が
「なんやあれ、なんか中で渦巻いとる?」
中嶋は
「なんかやばい気がするんやけど。」
2人が焦り出したのをみて
「なら早よ片付けて中入ろうや。」
というと2人は必死に散らばったカードを片付け出した。必死さに驚いているとさっきまでの雨の音が
ドドドドドドドドドド
という音に変わった。雨がすぐそこまできている。
その時、やっと自分にも2人が変だと言うモヤが見えた。変というか、モヤがかかっている向こう側は何も見えないの。
台風でさえ、かすれて景色くらいは見えるんやけど、本当に何も見えない。
直感的に、あの雨にのまれたらなんかやばいと感じ、カードの片付けをやめ
「おい!もう中入ろう、間に合わんぞ!」
と言い、カードを置いて屋上から中へ続く扉に向かって走った。
そしたら、なんかすんごいの。足は重いわめまいはするわ全然早く走れん。高木もカード片付けるのやめて走ってたけど、おっそいの。
扉もめまいでぐにゃぐにゃみえて、雨の音だけがすぐ後ろまで来てる感じ。
高木が隣でなんかいうてるけど、全く聞こえんし。
必死に扉にたどり着き転げるように俺と高木は中に入った。よーわからんけどなんか心臓バクバクよ。
窓から外を見ると校舎自体が雨にのまれてて、もやでなんも見えないの。中嶋は屋上に取り残されてるんやけど、姿見えない。びしょ濡れは間違いないやろう。
名前を大声で呼んでも返事もない。てか、雨の音で聞こえない。
数分が経ち、音が次第に弱まり、外の景色がはっきり見え出した頃、屋上に中嶋はいなかった。
雨も止んだので、高木と2人で屋上に出て探しても中嶋はいないんよね。
自分らのカードだけ、3人分びしょ濡れで屋上に残ってた。
風に飛ばされたんやと思って、俺と高木は急いで職員室に行って、先生に会ったことを説明した。
すると
「またあんたら2人ね、誰?中嶋くん?そんな子三年生にはいないでしょ。雨だって全然降ってないし早く家帰りなさい」
と。
何言ってんのこいつ。は?なに?
意味がわからなかった。食い下がって説明するが全く相手にされず、しまいには親に電話するぞと言われた。
高木と2人で狐に包まれたような気持ちで、職員室をでた。
「とりあえず、中嶋んちいこや」
と高木が言う。
そうしよう、中嶋のおとうとおかあに話そうと。2人で学校を出るのだが、その時おかしいと思ったのは、雨が降った形跡が全くないんよね。
グラウンドはからっからやし、普通に外でサッカーとかしてるし、ポケットのカードのデッキだけ濡れてんの。
やっぱり何かおかしいと思ったのはそれだけでは終わらない。
「あんたら誰?うちには娘しかいませんけど」
見慣れたはずの中嶋のおかあにそう言われた。もう意味がわからない。高木と2人で泣きながら帰ったのを覚えてる。
そのあとも、何回も中嶋の家にいき、先生や親にも話をしたんだけど、中嶋の存在が完全に消えてんの。俺と高木しか知らんのよね。中嶋を。
高木と考え抜いた結果、あの雨にのまれて中嶋は別の世界に飛んでしまったんだと言うことにした。ありえんけど。そうでもないと説明がつかんのやもん。
大人になった今でも、俺と高木はその時のことを鮮明に覚えてるし、飲みにいくこともあるが、必ずその話をする。
でもやっぱあの感じやと高木も気付いてるんじゃないかと思う。言わんだけで。
異世界に飛んできたのは自分らなんよね、多分。
よく遊んでた神社は変な病院になってるし、駄菓子屋はそもそもないし。庭で見たこともない犬飼ってるし。
微妙に変わってることがめちゃくちゃあった。高木も一緒なんじゃないかな。
あの時、ゲリラに飲まれた中嶋が異世界にいったんじゃなくて、ぐにゃぐにゃに歪んだ屋上の扉の向こう側が、異世界やったんやろうな。
とはいえ、自分は30歳もすぎましたが、嫁も子供もできて、バリバリ働いてます。何不自由なく。間違いなく幸せです。
ただ、この奇妙な体験は忘れないし、濡れてカピカピになったカードは今も持ってます。
あと、中嶋がいる本当の世界?では、自分らの存在はどーなってんのかなぁ、それだけが気になります。
でも諦めました。分かるはずもないですからね。
長文お付き合いありがとうございました!
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