
私が精神科病院で働き始めたのは、冬の寒い夜でした。新たな病棟に異動して間もない頃、患者たちの様子が気になっていました。この病院は、長期入院の患者が多く、時には入院期間が数年に及ぶことも珍しくありませんでした。しかし、私の担当する病棟は、何故か退院する患者がすぐに亡くなることが多い場所でした。地元では「囁きの病院」と呼ばれ、噂が立つほどでした。
ある日、私は業務に慣れ始めた頃、特に注意を払って患者を観察していました。すると、特定の患者が共通して奇妙な行動をとり始めたことに気付きました。それは、手を自分の耳の近くに持っていき、まるで誰かと話しているかのようにぼそぼそと囁くのです。何を話しているのかは全く分かりませんが、彼らがこの行動をとるようになると、長くても1週間以内に亡くなってしまうことが多いのです。
私の担当する患者も、ついにその奇妙な動作を始めました。心配になった私は、彼の手をこっそり見ることにしました。その瞬間、私は思わず息を飲みました。右手には耳があり、左手には口がついていたのです。彼はその耳に何を囁き、口からは何を漏らしているのでしょうか。恐怖に駆られ、私はその場から逃げ出しました。
あれ以来、私は病院に行くことができません。思い返すと、あの耳に囁くことが、呪いのように思えてなりません。亡くなった患者たちは、あの耳と何を交わしていたのでしょうか。もしかすると、あの囁きが死を呼び寄せるものだったのかもしれません。今でもその恐怖が忘れられず、私は再び病院に足を踏み入れる勇気が持てません。彼らの秘密は、あの耳の中に隠されているのです。何かを知っているのかもしれません。何もかもが、私を引き止めるのです。彼らの言葉は、決して私に届きませんでしたが…今でも耳に残っている気がします。失われた言葉が、私を呼んでいるような気がして。私の心の中に、何かが囁いているのです。私もまた、あの耳に何かを囁いてしまったのかもしれません。
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