
私は高層ビルで宅配の仕事をしていた。
いや、厳密に言うと「していた」のだ。
その日は、冷たい風が吹きすさぶ冬の夕方。
数件目の荷物を抱え、エレベーターに乗り込んだ。
静まり返った建物の中、ただ時計の音だけが響いている。
目的のフロアに着くと、いつものようにドアを開けて廊下に出る。
その瞬間、ふと背筋が凍るような感覚が走った。
廊下の先から、何かが近づいてくる音が聞こえた。
しばらくして、目の前のドアがいきなり開いた。
「すみません!」
思わず声をかけるが、出てきたのは顔色の悪い男だった。
薄汚れたコートに血で汚れた手。
その男は私と目が合った瞬間、目を逸らして脇を通り過ぎていった。
その時、彼から漂ってきたのは香水のような甘い香り。
だが、その香りの中には鉄のような生臭さが混じっていた。
「これは…」
血痕のついた荷物が私の目に飛び込んできた。
男が通り過ぎた後、恐怖で心臓が高鳴る。
数日間、私は不安に苛まれた。
何かが起こるのではないか、またあの男に出会うのではないか。
その後、数週間が過ぎ、私は徐々に日常を取り戻していった。
だが、休日の午後、何気なく出かけた街角で、また彼を見かけた。
人混みの中で、彼は無邪気に笑いながら話していた。
その瞬間、心臓が止まるかと思った。
逃げようとする私の耳に、低い声が響いた。
「見つけたよ。」
その声は私の後ろから聞こえてきた。
振り返ると、そこにはもう一人の男が立っていた。
その手には、私が配達したはずの血痕のついた荷物が握られていた。
一瞬の静寂の後、恐怖が全身を駆け巡った。
もう逃げられない。
冬の夕方に響く笑い声が、私を包み込んでいく。
何もかもが終わったのだ。
あの日の出来事は、もはや私の運命だった。
それに気づいた時には、時すでに遅しだった。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。


