
私の祖母が昔から経営している古びた診療所には、いつも不思議な噂がつきまとっていました。秋の夜、私は実家に戻り、診療所の手伝いをしていたのです。診療所は開放的で、周囲の住人が気軽に出入りできるような雰囲気でした。
その夜、ふとした瞬間、無言のまま廊下に立つ子供を見かけました。小学校低学年くらいの男の子で、見たことのない子でした。私は「こんにちは」と声をかけると、彼はこくりとうなずきました。お菓子でも持ってこようかとその場を離れた瞬間、気づくと彼はいつの間にか消えていました。驚きながらも気に留めず、そのまま診療所の中に戻りましたが、その出来事はその晩だけで3回も繰り返されました。
次の日、両親にその話をすると、母が驚いた様子で「もう、あの子はいないよ」と言いました。その「もう」という言葉が気になり、詳しく聞くと、半年ほど前に診療所の近くで男の子が行方不明になり、捜索活動も打ち切られたとのことでした。
まさかと思い、その男の子の写真を見せてもらった瞬間、私が廊下で見かけた子供そのものだと気づきました。彼はすでに命を失ったと思われていましたが、もしかしたら私に何かを伝えたかったのではないかと、胸が締め付けられる思いがしました。あの男の子は、まだ自分の存在を誰かに知らしめたかったのかもしれません。私の中で彼の影は消えることがありません。今も、診療所の廊下を歩くと、彼の姿がふと脳裏に浮かぶのです。何も言わずに、ただそこにいるかのように。私の心の中に、彼は生き続けています。何も伝えられないまま。私だけに残された影として。
この出来事を他には伝えていないのですが、あの子のことを忘れることができません。彼は、私の中でいつまでも生き続けるのです。
その後、診療所が閉じられようとも、彼の影は消えません。私の心の中で、彼は今も待っているのかもしれません。自分の名前を呼ばれるのを。
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