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長編

人を呪わば穴二つ

つなか 2020年9月8日
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桜も咲き始める3月下旬。 長い学生生活も終わり、ずっとお世話になったコンビニバイトの最終日。いつもは1人で行っていた夜勤に、店長が付き合ってくれた。 と言っても、店長は裏のデスクで発注作業。 最後くらい手伝ってくれてもいいのに、と思っていると、入り口のチャイムが鳴った。 いつも来る、店内の写真だけ撮って帰るおじさんだった。 思えば、入りたての頃からずっと夜中の2時ごろに来ては、レジ前のグミコーナー、アイスケース、トイレ前の三ヶ所の写真を撮っては帰る、そんな不思議なおじさんだった。 いつもは、面倒くさい人だったら嫌だなと声をかけなかったが、今日は最終日。 声をかけなかったらきっと後悔する。 「あの〜、どうしていつも写真を撮られてるんですか?」 おじさんは笑顔でただ一言こう言った。 「この人たち、寂しそうだから」 「〇〇〜!ちょっといい〜?」 店長が呼んでいる。 おじさんに、「そうですか、教えていただきありがとうございました!」と一言告げ、店長の元へと向かった。 「どうしました?」 「〇〇、あのおじさんと何話してたんだ?」 「なにって、、なんでいつもフロアの写真撮ってるのか聞いたんですよ」 「…。なんて言ってた?」 「なんか誰かが寂しそうだのなんだの言ってました。なんのこっちゃサッパリですわ」 「…。そうか。聞いたのはそれだけか?」 「はい。。そうですけど。。」 なんだか気味が悪い。 この時、何かとても嫌な予感がしたのを覚えている。 フロアに戻るとおじさんは居なくなっていた。 しかし今日はヤケに人が少ない。まあ仕事が捗るからいっか、と黙々と作業を続けた。 発注を終えたのか、3時前に店長は帰ってしまった。帰り際に、「いままで仕事頑張ってくれたから!」と赤いお守りを渡された。そこは普通飲み物とか食べ物とかだと思っていた。お守りて、、 仕事もあらかた終わり、3時半に差し掛かろうとした時。 駐車場を映している防犯カメラに、さっき来たおじさんがドア前で突っ立ってるのが映り込んだ。どうやらお店に向かい拍手しているようだ。 満面の笑みで、何か言いながら、お祝いのような感じで拍手している。 なんだなんだぁ?とフロアに出ると、 「良かったね!!!もう寂しくないんだね!!良かった良かったあ!!!」 と結構デカい声で喋っている。そしておじさんは僕を見るなり、満面の笑みで頷くと、そそくさと暗い夜道に消えていった。 4時。 辺りはだんだんと明るくなってきて、最後の勤務もついに終わろうとしていた。 この店にはお世話になったなぁ。なんてしみじみ思っていると新聞配達のお兄さんが来店して、いつものように新聞をレジに置くと、ニコッとして帰っていった。いつもは無愛想なのに、なんかいいことでもあったのかな〜。 5時。ちらほら職人さんも来店してきて、いつもの賑やかな店内になってきた。 仲の良い人たちに今日が最後だと伝えると、みんなニコニコしながら、お疲れ様〜と言ってくれた。 そして6時。 交代のおじちゃん、おばちゃんに最後の挨拶をした。たくさんお世話になったんだ。しっかりお礼を言うと、ニコニコしながら、「こちらこそ助かったよ!ありがとうね。」と。 最後までいいコンビニだったなぁ。 なんて考えてた。 でも。どうしてもあの赤いお守りだけは。 あれだけは持ち帰ってはいけない。そんな気がしたんだ。 帰り際、店長には申し訳ないけど、廃棄商品を捨てるゴミ箱に放り込んだ。 帰宅して3時間後のことだった。 働いていたコンビニが火事で全焼。 店内のコンセントから発火し、死者も多数。なぜかスプリンクラーは作動しなかったそうだ。店長とおじちゃんおばちゃん、それにたまたま来店していたのか、あの写真を撮っていたおじさんも亡くなった。 事件から数日後、店長の義父であるオーナーから電話があった。 「あんなことになるなんて…〇〇くんも気を落とさずに。それでね?今日電話したのはその事件の日のことなんだ。店内の防犯カメラが無事だったんだが、事故当日の映像を見返していたら不思議なものが映っていてね。是非君にも見てもらいたいんだ。」 僕はすぐ支度し、待ち合わせの駅前へと向かった。 その後オーナーと合流し、オーナー家でその映像を観させてもらった。 ここからはその映像の様子。 映像の時間は夜中の2時を指していた。 映像の中の僕は一人黙々とアイスの納品をしていた。 が、トイレ前を映していたカメラにその時は誰もいなかったはずなのに、真っ赤な服を着た男が立っていた。 画面は変わり、レジ前のお菓子コーナー。 赤い服を着た男がレジの方を見ながらボケッと突っ立っている。さっきとは別の男のようだ。 そして、再度アイスコーナーを映したカメラには、写真を撮っているおじさんと僕が話している姿。と、赤い服着た男がすぐ横に立っていた。おじさんが口を動かすタイミングで、狂ったように首を縦に振りうなずいていた。 店長デスクを映しているカメラに、防犯カメラに釘付けな店長の姿が映った。 店長には全て見えていたんだ。 僕がフロアに戻っても、3人の男たちは依然としてそれぞれの場所に立っていた。そして店長はデスクで何かを握りしめひたすら祈っていた。 映像を見ていた僕にオーナーは曇った表情でこう言った。 「問題はここからなんだ。気味が悪いかもしれないがしっかり見てほしい。」 オーナーはそう言うと、映像を早送りした。 そして2時52分で止めた。 フロアを映す映像に目をやると あれ? フロアにいたはずの男たちがいない。 そして店長デスクに視線を移した時。 僕を呼び出し、あの赤いお守りを手渡している店長の姿。 そして赤い男たちが僕らを取り囲んでいた。 彼らはみんな、僕に向かって指をさしていた。 それからずっと、彼らは僕についてきていた。 あのおじさんが拍手をしていた時も、新聞配達のお兄さんが来た時も、職人さんや交代のおじちゃんおばちゃんと話している時も。ずーっと僕の横にいた。 6時3分。 僕がお守りをゴミ箱に捨てている姿が映った。 その瞬間、映像がプツっと切れてしまった。 すぐに映像は戻ったが、次に映った映像は、見るに耐えないものだった。 真っ赤な店内。轟々と燃え盛る炎と煙が立ち込める中、防犯カメラに向かって指を刺し、何かを叫ぶ黒焦げの人たち。 それはまるで、地獄のようだった。 もし。お守りを持ち帰っていたらと思うと、 今も震えが止まらない。 帰宅後にふと気付いたのだが、 映像を早送りした時「しっかり映像を見てほしい」と言っていたオーナーの言葉も何か腑に落ちない。 もしかして…

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