
スマホの「最近追加」に、知らない写真が一枚混じっていた。夜の路地。街灯がにじむ雨の膜。その真ん中に、女が立っている。
顔は半分、フードの影で見えない。見えるほうの頬は泥みたいに黒く、口元だけが妙に白い。手には折れた透明の傘。傘の先端から、細い赤い糸が垂れていた。糸の先は地面に落ちず、画面の外へ伸びているように見える。
スクショかと思って詳細を開いた。撮影日時は「2020/08/10 01:31」。そんな頃、俺はまだガラケーすら持っていなかったはずだ。位置情報は空欄。機種名は「—」。なのにファイル名だけが妙に規則的で、俺のカメラが付ける形式と同じだった。
気味が悪くて削除しようとした。だがゴミ箱に入れても、数分後に戻ってくる。同期の不具合だと思い、クラウドを切って再起動した。戻ってくる。電源を落としても、起動した瞬間、同じ女が「最近追加」にいる。
翌日、仕事帰りに友人の望月に見せた。彼はIT系で、こういう現象に理屈を付けるのが好きだ。
「共有アルバムの誤同期じゃない? 誰かが送ってきたとか」
望月は俺の端末を触り、設定を覗き、首をひねった。「共有は全部オフ。端末IDも変なアクセス履歴なし。……でもさ、これ、影がおかしい」
女の足元。雨の路面に映るはずの影が、女からではなく、こちら側へ向かって伸びていた。まるで、撮っている俺のほうが立体で、女が平面の印刷物みたいにそこへ貼られているみたいだった。
その夜、通知が鳴った。「新しい写真が保存されました」
増えている。さっきの路地の、少し違う角度。女は一歩近い。傘の赤い糸は長くなり、画面の端で結び目を作っている。結び目の先は、相変わらず画面の外へ。
寝る前にカメラをテーブルに伏せ、レンズをタオルで塞いだ。撮れるはずがない。なのに、午前二時過ぎ、また通知が来た。三枚目。女はさらに近く、フードの奥の顔が少し見えていた。
目が、こちらを見ている。見ているだけじゃない。ピントの合い方が、俺の顔に合わせてある。
背中が冷え、思わず部屋を見回した。窓は閉まっている。鍵も掛けた。なのに、玄関のほうから、濡れた布が床をこする音がした。
カメラを構える勇気はなかった。ただ写真アプリを開く。四枚目が増えている。画面いっぱいに、女の口元。白い唇の隙間から、細い赤い糸が伸びている。その糸が、写真の下部で輪になって――俺の右手の薬指と同じ形をしていた。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。


