
中編
警告
めぐりん 2017年6月26日
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ある時期、私は金縛りによく合っていた。
暗闇の部屋の中、なんの前触れもなく目が醒める。
金縛りは決まって仰向けに寝ている時に起こった。
身体は動かず、辛うじて眼球運動が可能である事は分かる。
しかし闇の中視界が暗く何も見えない。
暫くして目が冴え、室内の輪郭がぼんやりと見えるようになる。
何か良からぬものが視界に入るのでは無いかと、身体中に響き渡る程心臓が鼓動で震える。
朧げで心許ない視界の中、暫く周囲を見回していると、視界の真ん中と左右に黒い影が見える。
どうやら私の頭を誰かの両足が跨いでいることが分かった。
仁王立ちの様に、私の頭の両脇に足を踏み締めるその誰かは、私の足元を向いて立っている。
自分の家族とも考えたが、感覚として人ならざる者の気配を感じた。
私は必死に瞼を閉じ、その何かをやり過ごそうとする。
気がつくといつの間にか眠っていて、朝の陽射しで目が醒める。
仁王立ちの何かは消えていた。
少なくとも3日おき、多い時で1週間連続でそういった怪現象が起きていた。
私はこの不可思議な現象に対し、専門的見地からの説明がつかないかを模索した。
程なくしてインターネットの検索で、それは呆気なく全貌を晒した。
金縛りは科学的に実証されていて、深い眠り、浅い眠りの繰り返しの中、所謂レム睡眠状態の時に起こる睡眠障害だそうだ。
金縛りは霊の仕業では無くただの疲労だ。
不安や恐怖を感じる必要など無いのだと、専門家が提唱している。
金縛りから抜け出す方法も、簡単に行えるとの事だ。
眼をゆっくりと動かして、自分は目が醒めていると自覚する事で金縛りから解放される。
この方法を知った当時、私は再びの安らかな眠りが可能になる事への安堵感と、疲労により起こるという原因に対して肩透かしを感じていた。
この方法を知ってから、渡りに船とばかりに次に金縛りにあったら試そうと考えた。
また、あんなに嫌煙していた金縛りを待ちわびる様になった。
数日後、金縛りが再び現れるまでは。
その日も闇の中、いつもの金縛りの様に身体が動かず眼球運動を認識できた。
金縛りに対し免疫が出来たかの様な根拠のない自信で、俄かに見知った情報を早速試してみる。
眼球を動かしながら、自分は目が醒めている、身体よ動けと念じ続ける。
念じ続けながら部屋の中を見回していると、薄っすらと闇に目が慣れていくと共に、やはり私の頭を跨ぐ様にして仁王立ちになっている何かがいた。
視界に捉えるその明確な存在感に、一抹の不安を感じながら尚も眼を醒まそうともがき続ける。
暫くして両手の小指が動く様になる。
指から手、手から腕と徐々に身体の大きな部分まで動くことを実感できた。
ただそれでもまだ、仁王立ちのそれは消えない。
やがて身体が全て自由に動かせる様になる。
同時に完全に覚醒している自分を確かめることが出来た。
意を決して瞼をぎゅっと閉じながら、身体を起こし眼の前の幻想を断ち切ろうとした。
仰向けから上体を完全に起こし切ろうという瞬間、物凄い力でその動作が遮られた。
息ができないほどの圧迫感を感じながらも、状況の把握に努めると、私の上半身は何者かによって抑え付けられているのが分かった。
私の身体に覆いかぶさりながら、両腕を抱きかかえる何か。
相手は先程の体制から180度回転し、私の上に覆いかぶさるかたちになっていると思われた。
顔面に掛かる生暖かい空気は、瞼を閉じていても得体の知れない何かの息遣いを容易に想像できた。
両腕を締め付ける強さが次第に強くなる。
うぅ、、、、
痛みからと、自らの顔面に掛かる何者かの息遣いの強烈な匂いが、私の呼吸を許さなかった。
息ができない苦しさから意識が朦朧としてくる。
いつしか私は意識を失っていた。
気がつくとまた、朝の陽射しで目が醒める。
夜に起こったことに呆然とする。
金縛りは確かに溶けた。
夢ではなく現実に起きたことを物語る様に、両腕の痛みと大きな痣。
そして異臭を放つ私のヨダレだらけのTシャツ。
何より、呼吸が出来ず朦朧とした意識の中で、はっきりとこう聞こえた。
「何をしても無駄。もっと苦しめ。」
男とも女とも取れないその声の主が、何者なのか、私はこれからどうすれば良いのか途方に暮れていた。
皆さんも金縛りには呉々も気を付けて下さい。
ただの疲労と高を括っていると、酷い目に遭い、私の様に今では毎夜例の何かに悩まされる事になります。
後日談:
- お祓いに行きましたが、効果はなく今でもその何かに悩まされています。
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