
俺は大学を卒業してから、都会での生活に慣れ親しんでいた。だが、ある秋の夕暮れ、故郷の温泉街で集まることになった友人たちと再会した。
集まったのは、大学の友人たちで、特に親しかったS、K、T、そして今回久々に帰ってきたYの4人だった。Yは地元の旅館を手伝いながら、就職を考えていた。
飲み会の席で、Sが「昔、温泉街の近くにある古い旅館で、親指を隠して通らないと不幸になるって言われてたの知ってる?」と話を始めた。俺たちは当時、その噂に怯えながら通学していたことを思い出した。
「でも、ただの迷信だよね?」とKが笑いながら言った。Tも「俺も気にせず通ってたよ」と付け加える。皆で笑い合ったが、ふと思い出すと、子供の頃は少し怖かった記憶が蘇った。
その後、楽しい時間が過ぎ、飲み会は終わった。
数日後、Yからメールが届いた。彼が地元の旅館での勤務が決まったとのことだった。喜んで返信したが、その数日後、Yが実家に戻るという知らせが入った。実家の旅館が火事になったらしい。
Yは家族と共に無事だったが、旅館は全焼したと聞いた。それから一週間後、Yから連絡が来た。「仕事は続けるけど、親指が火傷で一部失ったんだ」と。私は一瞬言葉を失った。
あの迷信の話を思い出した。Yがあの旅館の前を通った時、親指を隠していなかったと言っていたことを。親の無事は確保できたが、自分の親指を失ったという運命に、ぞっとした。
この偶然が何を意味するのかはわからないが、今考えると、あの迷信を信じていたら、もしかしたら彼は全てを失うこともなかったのではないかと思った。あの古びた旅館が、彼にとっての運命の分かれ道だったのかもしれない。彼の親指の欠落は、迷信と無関係ではない気がした。運命の不条理を感じる瞬間だった。
それ以来、俺たちはその話を語ることはなくなったが、心の奥ではその恐怖がいつまでも尾を引いている。迷信なんて、ただの噂だと思っていたが、時にはその裏に潜む真実を感じることもあるのかもしれない。
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