
ある冬の夜、静まり返ったアパートの一室で、彼らは映画を楽しんでいた。
外は雪が降り積もり、窓の外では白い世界が広がっていた。突然、強い揺れが部屋を襲った。家具や装飾が次々と倒れ、二人は慌てて逃げようとしたが、妻が倒れたテーブルに足を取られ、彼女は床に倒れ込んだ。
「大丈夫か!?」
声を掛けるが、彼女は返事をしない。彼は彼女を助けようと伸ばした手が、倒れたテレビの下敷きになってしまった。暗闇に包まれ、彼はそのまま意識を失った。
目を覚ますと、周囲は静まり返り、暗い部屋の中で時間が止まったようだった。心臓の鼓動が耳に響く。彼は身動きを試みたが、動けないままだった。何とか左手を動かせると、スマートフォンを取り出す。
「録画しておこう。何かの役に立つかもしれない。」
彼はスマートフォンの録画を開始し、彼女に呼びかけた。
「おい、そっちはどうなってる?」
「…頭が痛いの。動けない…」
彼の心に安堵が広がる。二人は会話を続け、互いの声が心の支えとなっていた。しかし、やがて疲れから声が小さくなり、いつの間にか二人は眠りに落ちた。
翌朝、目を覚ました彼は、再び声を掛けた。
「おーい、まだいるか?」
「…何とか…」
彼は再びスマートフォンを手に取り、録画を再開した。周りが明るくなり、彼は状況を確認するつもりだった。すると、何かが動く音が聞こえた。
「おい、こっちだ!」
近所の友人が助けに来た。彼は急いで瓦礫を掻き分け、彼女を探そうとしたが、友人は「大丈夫か?」と声を掛けるばかりだった。
「妻がいるはずだ、探してくれ!」
友人は頷き、瓦礫をかき分けていった。しかし、やがて彼の元に戻ると、顔が青ざめていた。
「そこにいた奥さん…でももう…」
彼の心に恐怖が走る。妻の声はもう聞こえなかった。彼は瓦礫を掻き分け、彼女の元にたどり着いた。彼女は動かず、冷たくなっていた。
「いや、いや、そんな…」
彼は信じられない思いで妻の顔を見つめた。そこに彼女の声はなかった。
「スマホ!録画していたんだ!」
彼は慌ててスマートフォンを取り出し、録画を再生した。彼女の声を探しながら、再生を進める。
「…そ、あれ覚えてるか?」
(無音)
「ひ、披露宴で…」
(無音)
「…あんな奴だけどこれからも仲良くしてやってくれよ…」
(無音)
彼女の声はどこにもなかった。ただ彼の声だけが、暗い部屋の中で響いていた。彼はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。彼の心に響くのは、彼女の不在だけだった。彼女はもう、彼の声には応えないのだ。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。

