
冬の寒い夜、大学の寮にひとり暮らす美咲は、友人から誕生日に貰った古びた人形を眺めていた。それはどこか懐かしいデザインの少女の人形で、友人がアンティークショップで見つけてきたものだ。柔らかな布地と、目の部分が大きなボタンになっているその姿は愛らしいものだった。
「可愛い人形だな」と美咲は人形に微笑みかける。寂しがり屋の彼女にとって、その人形は心の支えだった。
しかし、その晩、異常な冷気が彼女を襲う。
眠りにつこうとベッドに入った美咲は、部屋の隅に置いていた人形がわずかに動いた気がした。「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、目を閉じた。
だが、真夜中の2時に目が覚めた美咲は、背筋に冷たいものを感じた。誰かに見られている――それも、すぐ近くで。恐る恐る目を開けると、そこには布団の隙間から覗く人形がいた。
「え?なんでここに…?」
人形を拾い上げようと手を伸ばした瞬間、ボタンの目がゆっくりとこちらを見上げ、低い声が耳に響く。「君がいるから、私はここにいるよ。」
驚愕し、思わず人形を床に投げ捨てた美咲。しかし、彼女が振り返ると、投げたはずの人形がベッドの上に戻ってきていた。その微笑みは、どこか不気味に歪んでいるように見えた。
「ずっと君を見ていたんだ。」
美咲は叫びながら部屋を飛び出そうとしたが、足が動かない。背後から小さな手が足首を掴んでいたのだ。人形の手が、まるで生きているかのように力強く。
翌朝、友人が部屋を訪れたとき、美咲の姿はどこにも見当たらなかった。ただ、ベッドの上には人形が一つ。ボタンの目はどこか輝き、まるで新しい「友達」を待っているかのように微笑んでいた。彼女の笑顔は、誰かを迎える準備が整っているかのようだった。
その夜、美咲の部屋には再び冷たい静寂が訪れた。彼女はもう戻ってこないのだ。
人形は、今度は誰を見つめているのだろうか。
彼女がいなくなった寮は、寂しさに包まれていた。
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