
短編
カップラーメンの時間
匿名 2014年7月13日
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路上で死にかけのネズミがもがいていた。
ドクドクと心臓の鼓動に合わせて、全身が痙攣しているようだった。
後は死を待つだけであることは明白だった。
カップラーメンが出来るほどの時間眺めていると、動きが止まった。
しかし、またすぐに震えは再開された。
こうしてネズミがのたうち回る最中も、人々は通り過ぎていく。
いっそひと思いに殺してやろうか、という考えが芽生えた。
足を振り下ろせば、この小さな生き物など即死だ。
けれども、通行人から見れば残酷に映ることだろう。
事情の内にいるのは、私とこのネズミだけだからだ。
「何かあるんかね?」
後ろから、しわがれた声が聞こえた。
振りかえると、背中の曲がった老人が寄ってきていた。
「別に何もありませんよ」
じゃあ、なんでさっきから地面を見つめているのかね? と老人はさらに質問を続けた。
億劫になって、会話を中断するための言葉を探ったが出てこなかった。
「可哀想じゃね」
振り向くと、老人はもがくネズミを見下ろしていた。
そうですね、と私は言った。
ふと頭に冷たさを覚えて、指で触れると水滴だった。
見上げると、滴が目に入る。雨だった。
「こんなとこにおったら、風邪を引く……」
言い切らないうちに、老人は去っていった。
ネズミに視線を戻すと、目元に落ちた雨の滴が、涙のように糸を引いていた。
しかし、ネズミは既に事切れていた。
さて、ペットのエサを持って帰るとしよう。
この怖い話はどうでしたか?