
数年前、仕事のストレスに押しつぶされそうになっていた俺は、郊外の古道具屋を見つけた。外観は朽ち果てそうなほど古く、あまりにもひっそりとしていたが、不思議とその店に引き寄せられた。店内には、埃をかぶった古いオルゴールや、色あせたぬいぐるみ、昔の絵葉書が無造作に並べられていた。
その店の主人は、白い髭をたくわえた老紳士で、小さな眼鏡をかけてレジでボンヤリとした目で俺を見ていた。「いらっしゃい。ゆっくりしていってくれ」その言葉に驚くこともなく、俺は彼に頷いた。
一通りの品物に目を通すうち、ひとつのオルゴールが目に留まった。木製の美しい装飾が施されたそれは、どこか懐かしいメロディを奏でていた。
「これ、ください」と言うと、主人はにっこりと笑い、オルゴールを包んでくれた。
家に帰ると、すぐにオルゴールを開けた。すると、ふと気づいた。このメロディは、亡き妻が好きだった曲だった。彼女と共に聴いた思い出が、鮮やかに蘇る。
しかし、次第に不気味な感覚が広がってきた。オルゴールの音色が、まるで彼女の声のように聞こえてきたのだ。「帰ってきて」と繰り返すその声が、俺の心を締め付けた。
夜、眠りにつくと、夢の中に彼女が現れた。彼女は不安そうな表情で立っていた。俺は彼女に近づこうとしたが、何かが邪魔をして、近づけない。
「助けて」と叫びたくても、喉が渇いて声が出ない。
そして彼女が振り向いた瞬間、彼女の顔には大きな黒い穴が開いていた。
「うわあああ!」目が覚めると、汗びっしょりだった。どれほどの恐怖があの夢に潜んでいたのか、理解しきれないまま、俺はオルゴールが気になって仕方がなかった。
押入れの方に目をやると、オルゴールがしまってあったはずの箱が開いていた。
「見ないふり、しないよね?」その瞬間、押入れから声が聞こえた。
それは、顔に黒い穴が開いた彼女の声だった。
俺はその場で意識を失った。目が覚めたとき、俺の体は押入れの前に仰向けで倒れていた。オルゴールは消えていた。
何が起こったのか分からないまま、ただ静寂が広がっていた。その後、俺の生活に何も異変は起こらなかったが、あの古道具屋はいつの間にか影も形もなく消えてしまった。
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