
「火夫」とは、火葬を行う技師のことだ。彼の職業は遺体が完全に焼けるよう調整を行うことである。
※※※※※※※※※※
「すみません、すみません!」
遠くから聞こえてくる声に、目を覚ました俺は、仮眠室の時計を見た。午後10時。いつの間にかこんな時間になっている。
頭を掻きながら、軋むベッドから立ち上がる。上下ジャージ姿のまま、狭い仮眠室のドアを開け、ふらふらと火葬場のホールへ向かう。
今日は朝から自宅でゴロゴロしていたが、結局、夜になっても仕事をしないわけにはいかず、仮眠室で一夜を明かしてしまったのだ。
ホールに出ると、そこには暗がりの中に一台の黒い車が停まっていた。雨が降り出し、外は薄暗い。
「こんな時間に誰だろう?」
不安になりながら、正面玄関へ近づくと、スーツ姿の男がこちらを見ていた。男は白いマスクを被っている。
「ここは火葬場ですか?」と不気味な問いかけ。
「そうだけど、今日はもう業務は終了した。」
俺は素っ気なく答えると、男は「人を焼く設備があるのだろう?」と続けた。
「それはそうだけど、もう終わっているんだ。帰ってくれ。」
男は無言でこちらを見つめ、しばらく考えた後、ポケットから何かを取り出した。
「安心しろ。あんたに危害を加えるつもりはない。」
男は手に持ったものを俺に差し出した。それは一万円札の束だった。
「これから、いつも通りに仕事をする。そしたら、自動的にあんたの懐にはこの100万円が入る。」
──100万円?
俺は一瞬ためらったが、借金に苦しむ身としてはこの金額は魅力的だった。男の要請を受け入れることにした。
「でも、火葬許可書は必要だ。」
男は笑いながら言った。「そんなものは不要だ。火葬したら、その存在はなかったことになる。」
俺はその言葉に納得できなかったが、金の誘惑に負け、火葬の準備を始めることにした。棺を担架に乗せると、その重みが気になった。中には遺体が入っているのだろうか。
火葬炉の前に進み、金属の扉を開けると、棺の中から微かに声が聞こえた。「うう…」
驚き、恐怖に駆られた俺は振り返り、男を睨む。男は冷静に言った。「早く進めろ。」
棺の中からは命乞いの声が続いている。俺は恐怖心に襲われていた。棺に入っているのは生きている人間だ。息が詰まりそうになる。
「棺の中は遺体なのか?」
男は無表情で「お前が考える必要はない。棺を焼き尽くせばいい。」と答えた。
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