
中編
山道の熊
匿名 2024年5月7日
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自分の故郷は本当に見渡す限り山しかないような超ド田舎で、夏は人里に熊が出たから学校を早閉めするなんてことが当たり前にありました。
話は変わるんですが中学3年生のある日、当時の彼女(2つ上)と付き合い始めたばかりの私は、「彼女とヤリたい」という考えに囚われていました。
しかしながら田舎なんで当然ホテルなんかもなく、お互いの家には祖父母が常に家にいる状態なので家でするのもあまり現実的でない。そんな時、私は妙案を思いつきました。
私の故郷は稲作で有名な地域なので、民家のある場所とは別に各家の田んぼや畑が密集する場所がありました。ただそこは山に近い場所なので、わざわざ畑仕事の道具を家から山まで持っていくのは面倒くさい。なので大体の家は自分たちの畑のそばにバラックを作って、そこに色々な道具を置いてたんです。そこでこっそりエッチをしようと考え、彼女に提案しました。
彼女もそういうことには興味があったようで、とんとん拍子に話は進みました。問題は場所です。運の悪いことに私と彼女も家で畑は所有しているのですが、そもそも家が山に近いのでバラックを作る必要がなかったんです。そこで悩んだ末、なるべく綺麗なバラックを見繕い、そこで済ませようとなりました。
当然持ち主に見つかるリスクはあります。けど当時の私たちにはそれよりもヤリたい気持ちの方が大きく、場所を考え直すことはありませんでした。
選んだバラックはグレーのトタンでできたもので、隣町の加藤さん(仮名)さんが最近新しく作り直したものでした。中には芝刈り機やら鎌やら猫車など農作業に使う物品が多くありましたが、なんとかシングルベッド程のスペースが確保できました。そこら辺にあったゴザを敷いて始めたのですが、彼女のTシャツを脱がせた辺りで外から物音がしました。トタンを叩くような音です。
しまった!と思い彼女にバラックの中にあるブルーシートの下に隠れて服を着るよう言いました。
幸い私はまだ服を着ていたので、音の主を確かめるべくバラックの窓を覗きました。十中八九加藤さんだろう。加藤さんは話せばわかる人だから、彼女と2人きりになれる場所を探してたって言おうなんて考えてましたが、その予想は外れました。
窓の外には熊がいました。熊がバラックに背を向けていたんです。私は戦慄しました。さっきまで勃起していたものが一瞬でしぼみ、興奮で火照った体から冷や汗が吹き出ました。「加藤さん?」と声をかける彼女の口を必死に塞ぎ、「熊。熊。声出しちゃダメ」と耳打ちしました。彼女はヒッと声を上げましたが、黙って頷いてくれました。
その時、またバラックを叩く音がしました。いや。正確には引っ掻く音が聞こえました。ガリガリ、ガリガリ。熊がバラックをどうしようと考えていたのかは分かりませんが、当時は熊がバラックに押し入ろうとしていると考え、なんとか助けを呼ぼうと思いました。
涙を流す彼女に「逃げよう。歩ける?」と聞くと彼女は小さく頷きました。窓からは相変わらず熊の姿が見えます。私は壁にかけてあった鉈を手に取りました。万が一襲われた時はこれで抵抗して彼女だけでも逃がす。今考えるとお笑いですが、当時は真面目にそう考えていました。
バラックのドアは幸い窓の反対にあったため、私たちは静かにドアを開けました。そして静かに山をくだろうとしたのですが、熊に見つかりました。熊と目が合ったのです。熊の危険と隣り合わせの地域に住む私たちは、熊に遭遇した際は背を向けないよう学校で教わっていたため目が合ったのですが、初めて見る熊のプレッシャーはこの世のものとは思えませんでした。
熊の胸には白い毛が生えています。ツキノワグマです。私は彼女に「後ずさり、後ずさりだよ。背向けたらいかんよ」と震える声で伝えました。熊に背を向けてはいけません。
不幸中の幸いか私たちは坂で熊と向かい合い、そして熊よりも低い位置にいました。熊は前足が短いので上り坂は平気なのですが下りはそんなに早くありません。私たちは決して目線をそらさず、後退りを続けました。
十分な距離を取れたと思ったタイミングで、鉈を投げ捨て彼女に「背中に乗って」と伝えました。そして彼女をおぶって全速力で家に逃げ帰り、祖母に熊が出たことを伝えました。
そこからは大変な騒ぎになりました。
村で情報が共有され、役所にも連絡が行きました。少したって猟友会?の方たちが山に入っていったとの連絡を受け、その更に数時間後には熊を仕留めたと祖母から伝えられました。
彼女とは山を散歩してただけって伝えましたが、そもそも熊が出たというニュースが大きすぎてそこをそんなに追求されなかったのはラッキーと思いましたが、もう二度とあんな思いはしたくありません。
後日談:
- 彼女とはその後向こうの両親が仕事、祖父母が旅行に行ってる間に彼女の家で事を済ませました。
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