
長編
自殺者の心理
しもやん 3日前
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くなっていた。
* * *
直接の原因はわたしの父親にあった(のだと思う)。
父が某新興宗教を信仰していることを、わたしは彼女に告げていなかった。この点は完全にわたしの落ち度である。
あえて言い訳をさせてもらえば、申告漏れが起きたのは彼が基本的には無害であることを知っていたからだ。誰にも信仰を強要しないし、葬式や結婚式のやり方にもこだわりはない。それほどの問題になるとは思っていなかった。
甘かった。彼女の両親はかねてよりわたしのことを低学歴の労働者階級出身者として疎んじており、実家の住所やわたしの経歴、勤務先、年収、仕事内容などの情報提供を執拗に求めてきていた。率直に言ってこれはたいへんな侮辱であると思うのだが、わたしはそうした忸怩たる気持ちをいっさい伝えることなく協力していた。ひとえに彼女を愛していたから。
彼女の両親は興信所を使い、そうした情報からわたしの父が新興宗教の信者であることを突き止めたらしい。
彼女から呼び出され、両親、祖父母、兄から猛反対を受けている、どうしても結婚はできないと告げられた。わたしは預金や相続予定の土地などを合わせた総資産の開示、父親の信仰が彼女側の親族に累を及ぼさぬよう念書を書かせる、それでも足りないなら最悪絶縁も考慮すると伝え、再考を促した。
結果はノー、であった。
* * *
ラッセルをこなしているあいだ、わたしは完全に忘我の域にあったとしか思えない。
昼過ぎまで好天だった天候は15:00あたりから崩れ始め、嘘のような猛吹雪が吹き荒れ始めていた。視界はホワイトアウトし、ルート確認のためやむなく手袋を脱げば、数秒で指先の感覚が失われる。
いますぐにでも予定を変更し、エスケープルートを構築しなければならないシチュエーションである。
ところがわたしは鍋倉山への縦走を、自分に課せられた使命であるかのように感じていた。この行程をこなさなければ死ぬのだ、というような強迫観念に苛まれていた。事実はまったくその逆であったのだが。
この日はスノーシューなどの冬季登攀用具をいっさい携帯していなかったし、靴もスリーシーズン用のライトなものだった。思えば最初からわたしは、死に場所を求めて入山していたのかもしれない。靴に雪がなだれ込んで足先は壊死寸前、まつ毛は凍り、体温は刻一刻と下がっていく。動いているから辛うじ
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- 縁が無かった、それだけです。貴方様の魅力に気付いてくれる運命の人は必ず居ますから。命が勿体無いったらありゃしない。うんこりん
- とことん生きて下さい。人間は知恵が付き過ぎて、生きることの意味を複雑にしすぎていると思うのです。 天寿を全うして下さい。boildegg
- この文才を失うのは惜し過ぎる。 遺作にならない様お願いします!!1人で寝れない