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長編

自殺者の心理

しもやん 3日前
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怖くない 52
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て代謝によって体温が保たれているだけで、10分も休憩すればそのまま低体温症で力尽きていただろう。  わたしは憑かれたようにひたすら歩き続けた。  16;30、鍋倉山はまだ数キロメートル以上も先だった。  ホワイトアウトした厳冬期の稜線では、無限に近い距離であった。      *     *     *  所詮釣り合いのとれない無理な関係だった。それはわかっていたし、自分が労働者階級出身であると何度も伝えていた。  それでもわたしは悲しかった。彼女は家族の反対を受けて、なんらかの説得を試みた様子はなかった。わたしが提示した父に関する対策を、両親に伝えたかどうかすら怪しい。  確かにわたしは低学歴である。確かにわたしの収入は平均程度である。確かにわたしの父は新興宗教の信者である。それでも自助努力を怠らず、収入が上がるよう積極的に職域を広め、父を反面教師として無神論者になった。  恋人はかねてより〈人を経歴や学歴で判断はしない〉と言ってくれていた。しかし現実に、彼女はそれらでわたしを判断したのである。家族が反対しようがどうしようが、最終的に決めたのは彼女自身なのだから。家族を説得するよりもわたしに別れを告げるほうが楽だと判断したのだから。それに気づいたときの深い絶望を、読者は想像できるであろうか?  断言する。できまい。できるなどとは誰にも言わせない。      *     *     *  17:45、突如わたしは正気を取り戻した。  猛吹雪のなか横たわり、全身は雪に埋もれ、歯の根は合わずにガタガタ音を立てていた。  猛烈な眠気と戦いながら現在位置を確認する。鍋倉山から半分くらいの地点、909メートルピークだった。  半月ほど経ったいまでも、あのまま眠っていればよかったのではないかと思うことがある。  それでもわたしは身を起こした。死への恐怖からではない。生への執着でもなかったはずだ。  恋人は別れ際、必ず幸せになってほしいと言ってくれた。わたしはうなずきながら、それは無理だろうと確信していたし、いまでもそう思う。誰と結婚しても真の意味で幸せになれないことがわかっていたからだ。おそらく今後、結婚自体しないだろう。  平均寿命まで生きるとして、わたしにはまだ50年近い余生が残っていることになる。気の遠くなるような、茫漠たる孤独な生だ。明らかに死んだほうがましだったはずだ。  それでもわたしは生きる

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  • 縁が無かった、それだけです。貴方様の魅力に気付いてくれる運命の人は必ず居ますから。命が勿体無いったらありゃしない。
    うんこりん
  • とことん生きて下さい。人間は知恵が付き過ぎて、生きることの意味を複雑にしすぎていると思うのです。 天寿を全うして下さい。
    boildegg
  • この文才を失うのは惜し過ぎる。 遺作にならない様お願いします!!
    1人で寝れない
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