
長編
自殺者の心理
しもやん 3日前
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ぽうわたしは労働者階級の四人兄弟の次男で、当然学資はいき渡らず大学に進学すらしていない。ルーツなど当然不明で、おおかた寒村の農民というのがせいぜいだろう。最初から釣り合ってはいなかった。
そんなわたしがなぜ彼女と交際できていたのか、いまだによくわからない。おそらく自助努力だけは怠らない性分だったのがよかったのだと思う。わたしは20代前半から継続的に、年間150冊程度は読書する習慣をつけていた。正規の教育は受けていないけれど、ボーダーフリーの四大卒になら一般教養で負ける気はしない。
そうした独学精神が受けたのか、彼女はわたしをいたく気に入ってくれた。会話は打てば響くようによどみがなく、付き合っていた1年弱のあいだにケンカらしいケンカもなかった。わたしも彼女の人柄に惹かれ、とてもよい関係を築けていた。そう思っていた。
* * *
槍ヶ先からの稜線は全面積雪しており、ルートを自分で構築していかねばならなかった。稜線は一見一直線に北へ伸びているようなのだが、ミクロレベルでは細かく東西に尾根が振れている。うっかり支尾根に迷い込めば、春日村の寺本方面に流れる名もなき沢に降りてしまい、雪崩の巣へとみずから飛び込む破目に陥る。慎重にコース取りをせねばならない局面であった。
ところがそのときふと、わたしは言いようのない虚脱感に襲われた。あれは虚脱感だったのだろうか? 適切な表現が見つからない。投げやりな気分、コース取りに対する億劫さ、厳冬期の1,000メートル級稜線にいながら、ライフ・プロテクションを面倒だと切り捨てる不可解な気分。そうした負の感情が突如、わたしを襲ったのである。
機械的にランチを摂りながら、朦朧とする意識のなか、わたしは次のように決心した。
〈鍋倉山まで縦走しよう〉
ランチを摂っていた小ピークは槍ヶ先からおよそ1時間程度で着いていたのだが、その小ピークは鍋倉山までの行程のおよそ5分の1ほどの場所である。ランチを摂り始めたのが13:30だったから、単純計算で鍋倉山までラッセルするだけで17:30である。そこから下山ルートの高橋谷川へのドロップをこなし、気の遠くなるような長さの林道歩きを完遂する。下山完了は20:00前になる。どう控えめに見積もっても正気の沙汰ではない。
わたしは調理器具を片付けると、力強くラッセルを再開した。
もはや鍋倉山のことしか考えられな
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- 縁が無かった、それだけです。貴方様の魅力に気付いてくれる運命の人は必ず居ますから。命が勿体無いったらありゃしない。うんこりん
- とことん生きて下さい。人間は知恵が付き過ぎて、生きることの意味を複雑にしすぎていると思うのです。 天寿を全うして下さい。boildegg
- この文才を失うのは惜し過ぎる。 遺作にならない様お願いします!!1人で寝れない