
長編
この手紙の送り主
こーすけ 3日前
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しかしその封筒は宛先不明の判が押され手元に帰ってきた。
なんとその住所に家が存在しないそうだ。送る住所を間違えたか?と思ったが手紙を確認してみるとそんなことはなかった。どうしてなのか。私は少し腹が立った。もう手紙は家で保管することにした。
一ヶ月後また前入居者宛の手紙が届いた。前回と同じく家族の近況報告。その次の月もまたその次の月も・・・ここまで気にかけてくれる家族をもつ前入居者に対して羨ましく感じ、申し訳ないと思いながら手紙を読まさせてもらっていた。
季節は冬になっていた。
そんなある日また“あの”手紙が届いた。その頃には毎月届く手紙が楽しみにさえなっていた。速達の手紙であった。手紙に目を通す。私は驚愕した。
前入居者の父が亡くなったとの知らせだった。
今まで手紙をそのままにしてしまったことを深く後悔した。
この手紙は何とかして本人の元へ届けたいと思い、大家さんに自分の部屋に前住んでいた人がどこへ引っ越したのか聞いた。
しかし何も知らないという。
ならばせめて送り主に手紙が本人の元へ届いていないことを伝えたいと思った。
だが送り主へ手紙を書いても届かないので実際に向かうことにした。
どうしようもなかったこととはいえ手紙をそのままにしてしまったことは事実だし、なんて言われるかわからない。
しかしこのままにしてはいけない、何か行動を起こさなければと思った。
今思えばかなりのお節介だと思うが私はまだ若くそこまで頭が回らなかった。
次の日、支度を終えた私は送り主の元へ向かうことにした。
送り主の住所はS県。S県といっても山奥で非常に遠い。車は免許を夏に取得したばかりで慣れておらず、その上カーナビもないので本当に苦労した。
手紙に書かれた住所を見せ、人に尋ねながら送り主の住む家を目指した。しかし聞く人聞く人不思議そうな顔をする。それに少し違和感を覚えたがなんとか住所近くまで来た。
湖のある風光明媚な場所だった。しかし家が見当たらない。不思議に思い、近くを通りかかった年配の方に尋ねた。 すると、
“その住所にある街は存在しない。何年も前にダムの底にに沈んでいる”
私は耳を疑った。
昨日の昨日まさにその住所から手紙が来ているのだから。
持っている手紙をじっと見つめる。
何かおかしなところがないか…消印は…。
消印は20年前の昨日の日付を指していた。
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- 良質な話でした。黒柳徹子の中の人
- この手の話は好きです。怖い!びびり
- 有り得ない… そんな事が起こり得るのか… 今も時が止まっているのか…不思議で怖いですね。K