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中編

時の止まった家

ソラン 2020年7月24日
怖い 183
怖くない 190
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家族ぐるみの付き合いのある女性が居ました。 その方はとてもお洒落で、いわゆる資産家でした。 幼少期から、その方の家に家族で訪ねる仲でした。 悲しい事に、その方の旦那様とその方の長男も不幸な事故で亡くなってしまいました。 その方の口癖は 「遊びに来るときは、絶対に連絡をして下さいね。そうじゃないと、おもてなしができませんから」 私はその気持ちを理解出来たので、訪ねる前に必ず電話をしていました。 頑固な方で、平成の時代になっても黒電話を使い、エアコンは身体に悪いとの持論を持っていました。 でも、私がどうしても気になったのは、時を刻まない壊れた振り子時計でした。 夏にその方の家を訪ねると暑さに辟易としたものです。 いくら扇風機を回しても熱風が対流するだけですから。 熱中症の恐れもあるので、エアコンを入れたらどうですか?と何度か言いましたが、頑として受け入れてはくれませんでした。 でも私はその方が好きだったので、兄や母と一緒に遊びに行っていました。 ある時からです。その家に行くとゾッとする現象が起こり始めたのです。 その家は平屋でしたが、かなり広い日本家屋でした。 いつからか、家の中のトイレを使わせてもらえなくなりました。 「家のトイレは故障中なので、外のトイレに行ってください」 と笑顔で言われるようになったのです。 居間の奥の長い階段を通れば、トイレがあるのにです。 熱風を煽るだけの扇風機が回る居間。 奥にとても広い空間があるのに、窓やドアを締め切り、ニコニコと麦茶やお茶菓子、ときにはお寿司の出前を取ってくれました。 ある日、子供のような笑い声が聞こえたのです。 私はギョッとして、兄や母の様子を伺いました。 どうやら聞こえたのは私だけでなかったようです。 2人とも真っ青な顔をして、俯いていました。 その日の「お寿司食べて行ってくださいよ」はアイコンタクトで断りました。 皆んな一刻も早く帰りたかったのです。 その次に訪ねた時、奥の部屋にあるトイレが流れる音がしました。 故障中のはずの家のトイレが流れる音。皆んな冷や汗をかいていました。 おかしい。あの家はおかしい。皆んながそう思い始めました。 それでも懲りずに訪ねた時。 玄関の鍵がかかっていませんでした。その時は事前に電話をしていませんでした。 「鍵開いてますよ!いらっしゃいますか?」 私が声をかけた時、知らない男性の声で 「いるよーん!」と応答があったのです。 凍りつきました。母も兄も私も一言も発す事が出来ませんでした。 無言で一斉に上がり込みました。 そこに、私が小学校に上がる前に見たことのある男性がいたのです。 ボサボサの髪に浴衣姿で。もしかして… 「〇〇さんですか?」 私は勇気を出して尋ねました。 「そうだよーん!」 そこにその方が現れました。 「連絡をしてくれないと困るんですよ!」 いつになく不機嫌な声でした。 その方は堂々と彼を奥の部屋に誘導し 「あがってください。外は暑かったでしょう?何か飲みますか?」 何事も無かったかの様に、いつもの声でそう言ってきたのです。 彼は行方不明になっていたはずの、その方の次男だったのにです。 その後、いつからか閉ざされた奥の部屋に入ってみると外から南京錠のかかった部屋がみつかったのです。 恐る恐る中を覗くと、床には人型の様なシミ、カビの生えた壁。 そうです。その方は精神疾患を患った息子を閉じ込めていたのです。 彼女の精神状態は、時を刻まない振り子時計のように、止まっていたのだ。 この時代に座敷牢を作ってしまうのですから。 ゾッとしましたね。 なぜなら私はその方の孫で、その息子は叔父だったのですから。

後日談:

  • 実話なので、一部改変している事をご了承ください。

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