
長編
試着室の怪
匿名 4日前
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わらず、何もできずに直立したままでいました。
もうひとりの自分が振りかざしたハサミが、自分のスーツの胸元を切り裂きながら腹部に斜めに突き刺さるのを感じました。
痛みはさほど感じられません。
しかし、服を切り裂かれる感触と鏡から突き出された自分の腕の実在感は、はっきりとわかります。
床を見ると、腹部に突き刺さったままのハサミ越しに血液がじわじわと広がっているのが見えました。
そして、腹部から激しい痛みが襲ってくるのを感じました。
急に下半身から力が抜け、私はすとんと床に座り込み壁にもたれました。
薄れていく意識のなかで鏡のほうに目を向けると、鏡のなかの自分がうっすら微笑を浮かべながら自分を見下ろしていることが見えます。
私はそこで意識を失ってしまいました。
目が覚めると、病院のベッドの上でした。
「命は、なんとか助かったんだ……」
私は、そうつぶやきました。そして、徐々に記憶のなかから甦ってくる恐怖を必死で振り払いました。
私は、その事件をきっかけに、そのファッションビルでの仕事をやめることにしましたが、噂によると、その後もそのファッションビルでは、おなじような事件が引き続き起こっているといいます。
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