
は行くべきか迷ったが、生まれ育った実家を訪れた。
「……父さん、母さん。ただいま」
おそるおそる発したその声は、かつてこの家で響いていた息子の低い声ではなく、紛れもない若い女性――「真理」としての高い声だった。
男だった俺が、女性の姿となって生まれ育った実家に戻ってきたのだ。
世間一般の性転換手術(性別適合手術)を受け、地続きの苦難を経て女性になったわけではない。事故によって元の肉体を失い、文字通り「外見も構造も全く異なる別の人間」として生まれ変わった、異例の姿だった。
しかし、この奇跡の救命措置のすべてを知っていた両親は、ただ涙ながらに両腕を広げて迎えてくれた。
「よかった……本当によく生きて帰ってきてくれたね……」
嗚咽を漏らしながら私を抱きしめる母親の温もり。その肩越しに、普段は厳格な父親が、目元を真っ赤に腫らしながら何度も何度も小さく頷いているのが見えた。
母親の腕に包まれながら、私はその涙の温かさに胸を締め付けられた。
男だった頃の私を愛してくれた両親が、女性になった身体を間違いなく「自分たちの子供」として抱きしめている。
この肉体は人造人間であり、私自身の遺伝子から作られたわけでも、この両親から産まれたわけでもない。それでも、私たちの間にある血のつながりを超えた「家族の絆」というコトワリ(真理)が、確かにここにあることを痛感させられた。
・・・
その後、私は一人の女性として時を重ね、いつしか心から愛する恋人もできた。
男だった過去の記憶を抱えながらの恋愛には、最初こそ戸惑いもあった。けれど、不器用ながらも「真理」としての時間を積み重ねていくうちに、私のすべてを包み込んでくれる大切な人と巡り会うことができたのだ。
数年後、私たちは周囲の祝福に包まれて結婚し、やがて私はそのお腹に新しい命を授かった。
「100%実物の女性と変わらない」というあの医師の言葉は、本物だった。私の身体の奥にある、かつて人工的に作られたはずの子宮は、夫との愛を育み、ひとつの命を育てるための温かい揺りかごとして、確かに、完璧に機能していた。
男だった頃には想像すらできなかった神秘的な痛みを乗り越え、産声が病室に響き渡った瞬間。腕の中に抱き上げた我が娘は、ミュータントでも異形でもない、どこにでもいる100%の、愛おしい普通の女の子だった。
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