
冬の夜、山田雅子は古びた図書館に転職した。新しい職場は、築100年を超える建物で、ひんやりとした空気が漂っていた。周囲の友人たちは、「本が好きならいいけど、ちょっと不気味だね」と囁いていたが、雅子は古い本に囲まれる生活を楽しみにしていた。
ある晩、閉館の時間を迎えた後、雅子は一冊の古い本を整理していると、中から一枚の手紙が落ちてきた。「…雅子…」と、何かが彼女の名前を呼んでいるように感じた。気のせいだと思い、手紙を拾い上げた。
しかし、翌晩も、またその声が響く。「雅子…」と、どこか切ない響きを持つ声だった。声の正体を突き止めようと、雅子は図書館の奥深くへと進んだ。そこで見つけたのは、薄暗い書棚の隙間から覗く一冊の本だった。
本を引き出すと、そこには古い蔵書のリストと共に、無数の名前が書かれていた。すべての名前が消え、ただ一つ、「雅子」という名前だけが目に飛び込んできた。その瞬間、彼女の足元から**ずるっ…ずるっ…**と何かが這い出てきた。
薄暗い空間を照らすと、そこには目がない影が立っていた。「返して…私の名前を…」その影は雅子に近づいてきた。
混乱する雅子の耳元で、もう一つの声がささやく。「この図書館に来た者は…みんな“その名前”を奪われるの…」
気づいた時、雅子は自分の名前さえも思い出せなくなっていた。携帯には連絡先が消え、名刺も空白だらけ。友人に連絡しても、「ごめん、誰?」と返されるだけだった。
そして、夜になると、あの影が今度は雅子の声で、「…名前を、返して…」と誰かの名を叫び始めた。
「名前を返して」この図書館では、数十年ごとに「身元不明の職員」が消える事件が繰り返されているという。名前を奪われた者は、やがてその存在が薄れていき、最終的には、完全に消されるのだと言う。
雅子は、図書館の一員として、果たして自分が消える運命に抗えるのか、恐怖に怯えながら日々を過ごすことになった。
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