
秋という季節がなくなったのかというほど暖かな日差しの差す、土日にくっついた至福の祝日。
看護の学びから解放された私は、昼下がりの倦怠に身を委ね、ベッドの上でだらだらと過ごしていた。
13時過ぎ、少し重たいカレーを胃に収め、歯磨きを終えると、再び至福の寝床へ。
スマートフォンを眺めるうち、まぶたが重くなり、抗いがたい眠気が全身を包み込む。意識は深い水底へと沈んでいった。
夢を見ていた。
その内容は輪郭が朧げだが、確かな違和感を残している。ひんやりとした麻の感触、輪になって揺れる影。
__そう、首吊り用の紐のようなものが、暗闇の中で眼前にぶら下がっていたような気がする。
ふと、意識が浮上する。まどろみと現実の狭間、重力から解き放たれたかのように、意識だけが宙を漂っている、最も無防備な瞬間。
グッ、と喉元に何かが鋭く食い込む感覚。温度の感じない、それでも締められると理解するほどの圧迫。一瞬で空気が遮断され、肺が酸素を求めて痙攣する。
同時に、耳の奥でキーンという、高周波の金属音が響き渡り、全身が鉛のように重く、動かなくなった。
___金縛り。
「またか」と、経験者特有の諦念が湧く。
しかし、今回は違う。首を絞められる、という未体験の恐怖が、冷静さを奪った。
どうにかしてこの金縛りを解こうと、全身の筋肉を内側から引き裂く勢いで藻掻くが、指一本も動かせない。
私は右向きに寝ていた。その石のように硬直した体の、左側。
動かないはずの左腕が、勝手に動いている。
否、動かされている。
強い力でグイグイと、肘から先を無理やり引っ張られているような、不自然な、奇妙な筋肉の軋みを感じた。
金縛り中、身体は動かせずとも、眼球だけは自由だ。私は重たい瞼をこじ開け、左腕があるであろう空間を凝視した。
そこに、私の腕はなかった。
あったのは、ちょうど人の手のひらほどの大きさの、黒いモヤ。
空間の歪みのような、闇の破片のような、輪郭の曖昧な黒い塊。それは、私の左腕を掴み、どこかへと誘うように、微かに揺らめいていた。
モヤを見たその瞬間、頭の中に鮮明なイメージがフラッシュバックする。黒髪が長く、顔は見えないが、妙に華やかな、紅い服をまとった女の姿。知人ではない。見たこともない、幽世の女性。
全身の血液が沸騰するような焦燥に駆られ、今度こそ金縛りを解こうと必死になった。
しかし、抵抗すればするほど、首の締め付けは強くなる。
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