
長編
人面石
匿名 2024年12月17日
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私が小学2年か3年かくらいの時に体験した話です。
住んでいた団地は4つ棟が「ロ」みたいな形で建てられており、中央に公園がありました。公園には芝生や滑り台、ジャングルジム、砂場などがあって、その団地に住んでいる子どもらは大体皆ここで遊んでいました。
よく晴れたある休日の昼下がり、私は一人で砂場で遊んでいました。公園には他に子どもはいません。いつもは妹と一緒なのですが、家で昼寝しているらしく、私一人だけです。
すべての棟のベランダが公園に面するようになっており、親からすぐに見えるため、子どもだけで公園で遊ぶことは団地に住む家庭にとっては珍しくありませんでした。父は単身赴任中で、母は昼寝している妹のそばにいたので、私一人で来ていたのです。
公園の丁度中央にあり、二十畳くらいと少し広めで、藤棚が設けられた日陰の砂場でした。私は小さい頃からこの砂場で遊ぶのが好きでした。
その日は砂場をずっと掘っていました。砂場といっても所詮人工なので掘り続ければコンクリートの底が見えるのですが、子どもにとってはそこそこの深さまで掘らないといけないため、底にたどり着いたことはあまり多くありませんでした。今日こそは底のコンクリートが見えるまで掘ってやろうと一所懸命に掘り進めていました。
スコップで何度も砂や土を掘っていると、何か硬いものに当たりました。ですが底まではまだもう少しあるはずです。どうやら大きな石が埋まっているようでした。
ゴミや木の枝が出てくることはよくありましたが、大きい石が埋まっていることは珍しかったので、化石でも見つけたような心地になって慌てて掘り返しました。
掘り返して持ち上げてみると少し重い上に、大きさも20~30センチはありました。薄い灰色ですが、感触からしてコンクリート片ではありません。大きな楕円型の石でした。
掘ってみるとなぁんだという感じで、砂場の上に置きました。この時、何を思ったのか、何が気になったのか分かりませんが、私はその石をひっくり返してみたのです。
啞然としました。人の顔なのです。
石を彫ったとかいう風でもなく、自然とそこに人の顔があるようでした。眼の部分がくぼんでおり、鼻の部分は盛り上がっていて、口の部分に溝があります。左右対称でなく少しだけいびつなところが余計に人の顔に見えてきました。顎が細く、眉部分もあるように見える。石の大きさからして、大人の男性くらいでしょうか。表情は苦悶しているように見え、大変不気味でした。
(ポンペイの石膏をご存知でしょうか。あんな感じです。私はこの件以降しばらくポンペイの石膏はトラウマでした。)
子どもながらになぜなのかは分りませんが、この「人面石」が人工のものでないことが分かりました。何かは分からないけど、これは誰かが作ったんじゃない。自然の力でこうなったんだ。長い年月を経て風化したやつが、たまたま人の顔になったんだ。
誰かのいたずらなら逆に安心できました。これは違う。人間ではない、なにかもっとこう……。歴史を感じる。途方もないほどの……。得体の知れないもの、漠然としたものを感じる。
昼下がりの静かな公園。自分以外に誰もいない。自分の前には苦しそうな表情の人面石。ふつふつと恐怖を覚え、汗がだらだらと流れてきました。
まずい。これは長いこと見ちゃいけない気がする。
すぐに石を砂場に放置し、逃げるように家へ帰りました。
何かを訴えるような表情が頭から離れず、なんだか言っちゃいけない事のような気がして、妹にも母にも言えませんでした。冒頭で述べたとおり、団地に住むすべての人から見える公園。さらに砂場は公園中央にあるため、家の中からでもよく見えました。私はその日ずっと家の中からあの砂場を凝視していました。
次の日、公園が集団登校の集合場所となっているため、恐る恐る向かいましたが、石はもうありませんでした。昨日は自分以外の子があの後遊んだ様子はなかったし、私が寝るまで、大人も砂場に来なかったはず。誰かが持ち去るか埋めたのかな……?
しばらくは砂場で遊ぶことはできませんでしたが、友達や妹と遊ぶうち次第に恐怖は薄れていきました。その後友達があちこち掘り返しているのを遠くから見ていましたが、何も出てこなかったので、また砂場で遊ぶようになりました。
2,3か月たったある日。人面石のことはすっかり忘れ、妹と公園で遊んでいました。公園には私たち兄妹だけ。
その日は大きな砂山を作ったあとにトンネルを掘ろうと考え、妹がスコップで砂や土を掘り返し、私がその砂や土で砂山を作っていました。
妹がスコップをふるった時、コツンと何かに当たったようです。妹が私に「お兄ちゃん、ここなんか埋まってんでぇ~」と言います。
私は砂山を作るのに夢中。
妹に「じゃあ掘ってみーや」と適当に返事します。
私がすっかり忘れていたなにかを思い出してまずい、と思った時にはもう遅く、妹は掘り返してしまっていました。「でっかい石やった~」と無邪気に言います。石の底に手をかけていました。
止めようとする私。それより先に石をひっくり返す妹。
そこには、ああ、やはり石の顔。
私と妹は絶句しました。
不気味な表情に妹の顔はみるみる青くなります。
しかしそれ以上に、私の顔は真っ青になりました。
直視したくなかったあの顔。なぜ忘れていたのだろう。思い出すと同時に、違和感に気が付きます。
顔が少し変わっている。
前回よりも、より苦しそうな表情で。
すぐに妹の方を見ると、妹も私を見ています。
どうやら考えていたことは同じです。
この石は、いやこの顔は、長く見ちゃいけない。
石を私が持つと、「早くどっかやって!!」と妹の泣きそうな声が聞こえます。私は急いで砂場から出て、公園出口付近、私たちが住む棟から限りなく離れた木の根元に置きました。なぜだかわかりませんが、その木の下にある他の石に紛れさせたら大丈夫と考えたようです。
後は振り返らずに、2人で慌てて家に帰りました。
後日、あの石が木の根元にないことを確認してからというもの、私はその公園の砂場で遊ぶことをやめました。
誰かのいたずらだったのでしょうか。今でもあの公園に埋まっているのでしょうか。なぜ掘り返すと消えるのでしょうか。あの苦悶の表情は、何かを訴えかけていたのでしょうか。
今となっては、うろ覚えなところもありますが、はっきり覚えていることもあります。
あれは人工物じゃない。そして、長く見ちゃいけない。
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