本当にあった怖い話

怖い話の投稿サイト。自由に投稿やコメントができます。

長編

みた夢

みほ 2020年8月24日
怖い 184
怖くない 167
chat_bubble 0
9,890 views
目が覚めると、あまりに眩しくて目が開けられませんでした。 壁紙も天蓋も寝具も真っ白で、窓から射し込む太陽光が部屋中に反射していました。 雇い主がまだ寝ているというのに、カーテンを開けた家政婦にイラっとしました。 片目を開けて、ベッドサイドテーブルの上に置いてある時計を見ると10時過ぎでした。 太陽光が強くなっているわけです。 上体を起こし、ぼーっと室内を眺めると、家具の上に写真立てが並んでいます。 私たち夫婦の写真ではありません。 夫と不倫相手の女の写真です。 私を追い出そうと、夫が実力行使に出たのです。 私は怒りにまかせて写真立てをめちゃくちゃに倒しました。 そうしているうち、悲しくなってきました。 「キャアッ」 ドアの方から悲鳴がしました。 振り向くと、家政婦の一人が怯えて立ちすくんでいました。 「あなたね、私が寝ているのになんでカーテンを開けるのっ」 と私が叱り始めると、彼女は走って逃げて行きました。 カーテンの事もそう、この態度もそう。夫の私に対する態度に影響され、使用人が私をバカにしているのです。 私はベッドに突っ伏して泣きました。 玄関の方が騒がしくなったので、夫が帰ったのが分かりました。 夫が仕事で成功し、私たち夫婦は古いけれど大きな屋敷に住んでいます。 私は寝室を出て、赤い絨毯の敷いてある廊下を突き当りまで歩きました。 そこから階下の玄関ホールが見渡せます。 夫と運転手、4人の家政婦、そして写真の女がいました。 女は私を見上げて驚いた様子でした。 夫は私が出て行ったものと思い、不倫相手を連れて来たのでしょう。 「なんだ、お前は!なんでいるんだっ!」 夫が私に怒鳴りました。 「出ていけっ!」 凄い形相で私に怒鳴りつけます。 「なんで私が出て行くのっ!出て行くのはその女でしょっ!」 私も大声で言い返しました。 使用人もこちらを見上げてざわついています。 不倫相手の女が出て行くようで、玄関ドアの方へ歩き始めました。怖がっているようです。 更にヒートアップした夫が私に怒鳴り続けています。 私は思い余って、寝室に駆け戻りました。 ほどなくして、夫が寝室に入ってきました。 先ほどと同じく、出ていけ、出て行かないの応酬です。 倒された写真立てを見て、夫は余計に怒ったようでした。 私も怒り心頭で、写真立てを家具の上から床へ、次々と落としました。 その時、いつの間にか夫の後ろに立っていた若い家政婦が「きゃっ」と悲鳴を上げました。 夫は振り返り、彼女に何か言いながら寝室を出て行きました。 私の足元には写真立てと、割れたガラスが散乱していました。 窓から庭を見ると、やはり、門へと向かう夫の車が見えました。 後部座席には、夫とあの女が乗っているに違いありません。 私はベッドに座りました。怒りと悲しさとで、涙を堪えられませんでした。 意外にも3時間ほどで夫が戻って来ました。 警察官二人を連れて、玄関ドアを入って来ました。 二人の警察官は歩きながら、観察するように辺りを見回しています。 夫は私を指し、警察官たちに何か話し、彼らは私に何か話しかけてきました。 彼らの英語が聞き取れません。 普段、夫の話す英語は聞き取れます。 日本人の私にわかりやすいように彼が話してくれるし、私の耳が彼の英語に慣れているからでしょう。 彼らの話す事はさっぱり解りませんでした。 連れ出されそうになったら抵抗しようと考えたのですが、何もされませんでした。 夫が通訳してくれればよさそうなものですが(とはいえ彼は日本語を話せません。聞き取った英語を私の分かりやすい表現で話してくれればいいのです)、彼は戸惑ったような表情をして、視線を私と警察官の顔を往復させていました。何度も何度も。 そして、三人で話しながら、玄関から出て行ってしまいました。 そのまま彼は3週間ほど家に帰りませんでした。 大きなダイニングテーブルの隅の席に食事の用意がしてあります。 いつも、私はその冷めた料理を一人で食べるのです。 味気ない食事です。 テーブルにはクラシカルな燭台がいくつか置いてあるのですが、ロウソクの火は灯っておらず、ダイニングルームの主な照明も点いていません。 壁につけられた小さな電燈の明かりだけの暗い部屋で、私は食事をします。 使用人にとって主人は夫で、なんなら、今後権勢をふるうのは不倫相手だと考えているのかもしれません。 そう考えると腹立たしいです。 私を小馬鹿にしている使用人を叱ってやりたいのですが、もうそんな気力も無くなりつつありました。 誰もあまり寝室に入ってきませんが、ふと戻ると、写真立ても元通りに配置されていることがあります。 その都度、癇癪を起こして写真立てを倒したのですが、怒りを示す相手である夫は戻らず、だんだんと面倒になっていきました。 不倫相手のプロンドを連れて来た日から3週間ほどが経ったある日の午後、夫が帰宅しました。 私が寝室にいると、彼は静かにドアをノックし、寝室に入ってきました。 私には久しく見せなかった、穏やかな表情でした。 続いて黒装束の中年の男性が入ってきました。 全体の70%くらいがグレー、後は暗い茶色の髪をした白人で、見たことのない人でした。 二人とも愛情をかけるような眼差しで私を見ていて、黒装束男性は優しい口調で話しかけてきました。 黒装束は何かの宗教の神官のような感じでした。 古いホラー映画に出てくる、悪魔祓いの神父を思い出させました。 男性が言いました。 「あなたが〇〇子さんですね?」 私のファーストネームでした。 「はじめまして。私は彼の友人で、今日はあなたと話すために来ました。」 彼の英語は、私にもわかりやすいものでした。 私はそのまま黙って彼の話す事を聞きました。 「あなたは彼の大ファンだったんですね。私も彼の映画は観ていますが。才能があり、人柄も素晴らしい人です。」 ????? ファン???・・・そうだったかなぁ・・・ ・・・そうだったなぁ、、それで、 それからずっと後に結婚したんだ。 と、思いました。 「いいえ、あなたは彼の妻ではありませんよ。」 何も言葉を発していないのに、突拍子もないことを言われました。 驚いて言葉を失っていると、追い打ちをかけるように彼は続けます。優しい表情のまま・・。 「彼の妻はあなたも知っておられるでしょう。女優の△△△△・△△△△ですよ。」 女優っ??じょゅ・・△△△△・△△△△? あのブロンドの? 私の頭に浮かんだのは、この間みた夫の不倫相手の顔でしたが、彼女は赤い絨毯の上、ボディラインを強調したパールホワイトのドレスを着て立っている姿でした。 私の頭は混乱し始めました。 「あなたは生前、彼の大ファンだった。彼が現れるイベントなどには、わざわざ日本から来ていましたね。」 日本からイベントに??そうだったかもしれないけど、その後、彼と結婚したんですよ、私。 心の中で言いました。 「いいえ、彼は△△△△・△△△△と結婚しています。ご存知の筈ですよ。」 私は夫を見ました。 サービス精神に溢れ、ファンを大切にすると言われている彼です。 彼は、大切なファンに向けるような、優しい目で私を見ていました。 でも、ふと視線を外すと、黒装束の男性の後ろを通って、ゆっくりと部屋を出て行きました。振り返ることなく。 私は声を出す事も、体を動かすこともできず、彼を引き止められませんでした。 ファン・・なの・・? 部屋に残った黒装束の男性に対しても言葉を発することができませんでしたが、彼に伝わるよう、また心の中で思いました。 私は彼の妻・・だと思いますし・・。生前って・・・私が死んだってことですか?私は死んでません! 黒装束の神官と屋敷の玄関から出ました。 赤い古い型のポルシェが待っていました。運転席には俳優の彼が座っています。 私と神官はその車に乗り込みました。 目的地に着けば、私にも分かると神官が言うのです。 ふと気づくと、私は彼のポルシェではなく、バスに乗っていました。 道中、神官はこの数週間で集めた情報を私に話してくれました。 不思議なことに、神官は老けたように見えました。老人に見えました。 私は大ファンの彼に関するイベントが目的の海外旅行に、よく行っていたそうです。 彼のファンでもない友達が私の旅行に付き合うのに疲れ始めると、私は一人で出掛けるようになったんだそうです。 私が遭った飛行機事故も、彼が映画の宣伝で滞在している地へ向かう時に起こったそうです。 死んでいるはずないんですけどね。 今もバスに乗っているくらいなんで。 2時間半から3時間弱バスに乗って、目的地に着きました。 バス停から20分ほど歩くと、草ぼうぼうの、人があまり立ち寄っている様子のない公園のような場所があり、私は神官に案内されるままそこへ入って行きました。 暫く進むと、蔦が絡まった碑が立っていました。 鎮魂の碑でした。 台座部分には飛行機事故の被害者の氏名が彫ってあり、以前誰かが蔦の葉を掻き分けた痕跡がありました。 神官が示した先、そこに私のフルネームがありました。 神官は私の少し後ろで、私を見守るように立っていました。 私は石碑の台座と蔦にすがりついて大泣きしました。 怖かったんです。そして、悲しかった。 目が覚めました。 家族と暮らす団地の私の部屋でした。 私は死んでいないし、1時間半後には仕事に行きます。 言いようのないほど、安堵しました。 24年経ちますが、詳細まで記憶している夢です。

この怖い話はどうでしたか?

f X LINE

chat_bubble コメント(0件)

コメントはまだありません。

0/500

お客様の端末情報

IP:::ffff:172.30.1.202

端末:Mozilla/5.0 AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko; compatible; ClaudeBot/1.0; +claudebot@anthropic.com)

※ 不適切な投稿の抑止・対応のために記録される場合があります。

label 話題のタグ

search

短いのに後を引く恐怖話

読み込み中...

途中で読むのをやめたくなる中編怪奇

読み込み中...

迷い込む長編異界録

読み込み中...
chat_bubble 0