
長編
呪詛
えい 2018年3月1日
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これは 5~6年前 K市にお住まいの方の相談を聞くために 小旅行を兼ねて知人と二人で出掛けた時の話です。
ご相談の方の住まいは 待ち合わせた場所から 山手の方に行き 少し奥まった所にあり 家の裏が山で 2階建てで リフォームもされているから 築年数は 随分と建っているらしいのですが 昔の家を連想させる作りでは無かったそうです。
ただ……奇妙な契約?があったそうです。
それは 二日以上 家を空けてはイケないという事と 夜間は外出してはイケないという事と裏にある竹林に近付いてはイケないという事だったそうです。
その理由を尋ねたそうですが 答えては貰えなかったそうです。
そこで彼は 家賃が安い理由がその時わかったそうですが… その妙な感じの約束事さえ守れば いいんだろうと彼は 家を借りる事にしたそうです。
因みに 家賃は月々9,000円だという事でした。
住み始めて暫くは 何も無かった様でしたが 3ヶ月が過ぎようとしていた時 裏の山の方から 何かが降りて来て 家の回りを徘徊する様に なったというのです。
始めは 野生の動物かと思い 窓から外を見て その正体を確認しようとしたそうですが……
その時は それの確認は出来なかったそうです。
なので 昼間に それが居た辺りを 痕跡が無いか家の回りを見て回ったそうですが それは見付からなかったそうです。
それから 何日も夜中にそれは現れ 家の回りを徘徊する毎日が続いたある日 それが何かをブツブツ呟いている事に気が付いたそうです。
ただ 彼には 何を言っているのか?までは 分からなかったそうです。
一通りの話を聞いた後 私と知人 相談者の彼を乗せたタクシーは 彼の住まう家へ行きました。
途中から 車が入らないという彼の申し出を受け彼の家がある場所から150mくらい離れた所で タクシーを降りて 私達は 歩いて彼の家へ行きました。
そこは 近隣の住居の間隔が広く すぐ隣だという家でも 彼の家から 100 20~30mくらい離れていました。
多少 大きな声を出しても 聞こえないのでは?と思える様な 少し 寂しい場所でした。
タクシーが通って来た道から脇道に入り 蛇行しながら 歩いて行くに連れ 何とも表現しようもない異様な気配を感じ始めた時 知人が私の服の袖辺りを引っ張りました。
知人 「何だろう?凄く 嫌な感じがする……それに……」
知人が次の言葉を繋ぐ前に 私は自分の口に人差し指をあてました。
それを見て 知人が黙ると 鋭い刃物が突き刺さる様な視線が回りの木々の間からし始めました。
彼は 何かの気配を感じているのか?落ち着かない様子で 歩くスピードも 幾分か早くなりました。
私は彼に 「急ぎましょう。ただし 走ってはダメです。家の敷地に入ってしまえば 多分 追っては来ませんから。」
その言葉に 彼と知人が頷き 3人は身を寄せ合う様に足早に 彼の家へと急ぎました。
その途中で少し視線が和らぐ場所があり 私が立ち止まると 知人と彼も立ち止まりました。
知人 「あれ?ここは少し 感じが違う…さっきまでは 殺されるんじゃないかってぐらい 殺気が凄かったけど…。何で?」
私 「ここの土地は 少しだけまだ 守りが利いてるみたいね。目には見えない 土の中に 道祖神が埋まってる。多分 それが 四方にあるはず 点と点を繋ぐ形で 守りが利いてる。よほど 何かを 恐れていたみたいね。」
知人 「道祖神……て事は 昔もここは 道だったって事だよね?」
私 「今は 彼の家へ急ぎましょう。ここに長居は無用。」
そういって 私達は歩き出し 2~3分歩いて彼の家へ着きました。
着いてみてわかった事は 少しは開けているけれど 殆ど回りは 木々が覆い繁っていて 家のすぐ裏は 本当に山でした。
私 「何かが来るのは こっちの方じゃありませんか?」
彼 「分かりません。キチンと確認した訳じゃないですから……。」
知人 「こっちの方角って 何かありますか?何か…何だろう?怒りみたいなのを感じるんですが?多分…人じゃないです。」
彼 「そっちは 少しズレますが ○○○○山があります。昔 何かあったらしいですが…。」
私 「その 山は関係無いですね。怒っているのは 元々の山の主みたいなモノですが…今回の事とは 関係なさそうです。むしろ……こっち。この奥に 原因があると思います。それと この家が建っている土地です。」
知人 「ああ…山の主かぁ…確かに人じゃないな…で 原因はこっちと……ん~?… 」
私 「コラッ 凝視しちゃ駄目 !! ハッキリ姿みると祟られるよ ?!」
知人は私の言葉に 驚いて 視線をそらしました。
知人 「えっ⁉ って事は……紫雲 !! あんた見えてんの ?!」
私は知人の目を見て 軽く頷きました。
その様子を 見ていた彼が言いました。
彼 「なっなななな何が い居るんでっですか?」
私 「何だろうね…?元は形があったハズだけど…今は 形すらない。コレ自体 自分が何ものだったのかも忘れてしまっている。コレにはもう 言葉は通じない。だから 想いも通じない。 散々 働かせるだけ 働かせておいて 時代の流れと共に 世話をする ( 奉る 或いは 供養 ) 者も減り 終には この家一軒になってしまった…。これは この一区画だけの呪詛の様なものです。何故?この家だけに コレ等が現れ家の回りを徘徊するのか?それは……この家が建つ場所に 求める物があるから…。」
知人 「 誰っ⁉ そこに居る人 !! 」
彼の家の門の脇に 1人の老婆が隠れる様に立っていた。
老婆 「あんた達は何者だ?何故?その事が解る?」
彼 「何か知っているんですか ⁉ 知ってるなら 教えて下さい !! 」
老婆 「お前は誰だ ⁉ ○○は何処に行った ?! 」
彼 「○○ ?! 僕は その人から この家を借りてるんです !!」
老婆 「何だと?! 」
私 「その……○○さんが最期だったハズです。その後は どうなさる おつもりでしたか?」
老婆 「……………………。」
私 「最終的に この家に全てを押し付けて アレが探し求める物を 総てこの家の建つ 土地に埋めて隠し 更に 道具として扱った幼児達の家族を殺し あの竹林の奥にある 井戸に投げ落としましたね? あなたは 当時 まだ 子供で良く分からなかった。でも 聞かされていたハズです !! あの…いえっ…この家に近付くなと…。」
老婆は俯いていた。
何も言わず ただ 静かに身体を震わせていた。
私 「あなたも……最期の事情を知る者…なんですよね?たった1人遺されて 怯えて暮らして来たのでしょう?呪詛を使い村を繁栄させても 後の処理を間違えば それは時代を幾度越えても 消える処か 力を増して行くだけです。ましてや ここの地には あの 山がある…。 私が何を言いたいのか解りますよね?」
老婆は少し考え込んだ後 ハッとした顔をして 私の顔を見た。
私 「あなたは もう十分苦しんだ。怯えながら暮らして来ました。この事情を知るのは あなたと今の私達 四人だけです。でも…あなたはもう 忘れて下さい。この事を知る者は 今の時代には 誰もいないのですから…。 いいですね?2度とここへ来てはいけません。私達が これから たくさんの人を連れてまたこの家に戻っても 近隣の人からは 家の増築 或いは リフォーム程度と思われるハズです。ですから…あなたももう忘れて この現代を最期の時が訪れるまで 生きて下さい。」
老婆は 両手を顔にあて 身体を震わせ泣いていました。事実を知っている最期の1人として見守ってきた きっと 1人 また1人と事実を知る者が亡くなる度に……知る者が口にしたであろう言葉に 老婆は怯えていたはずです。
「祟られた。呪われた。」と……。
後日…私は再び 彼の家を訪ねました。
しかし……彼はいませんでした。きっと 引っ越されたのだと 思います。
○○さんの事情を知らない親類の方に 適当な理由を付けて家に上がらせて貰い 床板を剥がし 土を掘り返し 壺の様な物を2つ回収しました。
( 適当な理由 : ○○さんが誰かに呪術を掛けられたと相談を受けた。多分 床下に 壺の様な物が埋まっているハズです。と 言い 実際に壺が出た時は親類の方が驚いていました。絶対 疑わしく見ていたはずですから…。 )
それと 井戸に葬られた 人達を総て水晶に移し
土地に眠る 呪詛を持ち帰り 今は 私の手で供養を続けています。
アレが 何かを 言いながら 家の回りを 徘徊する。
それは……悲しくも 寂しくも 愛おしくもある 声で…繰り返し 繰り返し 呟きながら…探し求める。
「 お母さん……」 「お父さん……」「お母さん……」 と…
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