
昼飯の流儀
「俺がもう一人いるんだ……」
「そうか……お前の元にも…」
酒の席の戯言として父に話したのは、自分の境遇の不可解さに対して笑い飛ばして欲しかったからだった。
実家にまで家族を連れて逃げてきて、正直自分でもどうかしているという自覚はあった。
しかし、父の顔が強張り曇るのを見て、ひろしはこの奇妙な現実と向き合う覚悟を決めその重い口を開いた。
「何か……知ってるのかよ….オヤジ」
銀の助はその顔を枯れ木のように振り絞り、溢すかのようにぽつりぽつりと語り始めた。
「野原家の男にはよ…昔から言い伝えがあるんじゃ」
…
……
ーーーーーーかつて儂らのご先祖様にな、とんでもなくスケベなお方がおったそうじゃ。
名は野原助平、名は体を成すとはこのことじゃな……その御方がよ、あるカミさんに対して大変なご無礼を働いたことが始まりだったそうじゃ……
……まぐわった。
そう、古い文献にはの……
畏れ多くも神聖なるカミさんとの間に、肉体的な交わりを持ったと記されておる……
ひろしは息を飲んだ。目の前がぐらつき、酒のせいではない吐き気がこみ上げてくる。
「っ……オヤジ、それ本気で言ってんのか? 神様と……」
「うむ、言いたいことがあるのは分かるが最後まで聞くんだゾ。
その御方が『神様の怒り』そして呪いを一身に受けてな。
その祟りが野原家の男に限り『同じ顔をした異質な者を創り出し』…『成り変わろうとする』
……どっぺるげんがーって奴に似とるな……
さりとて、悪いことばかりでもない。
神との血の交わりゆえか、強靭な運をもたらし決して命を失うことはなく、災いに見舞われても最後には必ず助かるそうじゃ…、
神様の考えることは…ワシには良う分からん…、」
何故今まで思い至らなかったのだろう。
家がガス爆破した時、何故俺たちは無傷だったんだ?
戦国時代へ行った…
宇宙人にひまわりが連れて行かれた事だって……
なのに世間は今も俺達に興味もくれない…
変じゃないか?
…いくらなんでも、地球が無くなる規模の爆弾や大人を子供に戻すカルト宗教だって、一個人がどうにかする範疇を超えているはずだ…
なのに…俺達はいつも、何事もなかったかのように日常に戻っていた。
「じゃあ…オヤジも…?
なんで早く教えてくれなかったんだよ……、!
しんのすけ、しんのすけはっ、!
じゃあよっあいつの偽物も出てくるのか?」
銀ノ助は黙って首を横に振った。
「 わからん……だが、一つだけ…
お前にも覚えがあるはずじゃ……
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