
長編
一家心中の噂がある廃屋
匿名 2023年10月20日
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どこの地域にも、「あの廃屋は昔住んでいた家族が一家心中したんだ」という噂はあるのではないだろうか。
俺の地元も例に漏れず、この噂話が存在していた。
山の中腹にぽつんと残る廃屋。
そこには昔小料理屋を営んでいた家族が住んでいた。
しかしあるとき父親が精神病を患い、妻と子供、そして自分の母親を惨殺した後に自殺した。
そんな噂は、地元に住む子供らはみんなが知っていた。
大学生のころ。
俺たちはその廃屋に肝試しに行くことにした。
噂を本気にしていたわけではなかったが、山の細い道沿いにぽつんと一軒だけ佇むその姿は不気味で、昼間でも近寄りたい場所ではなかった。なので、ちゃんとこの廃屋に行くのはこの日が初めてだった。
その日は深夜、俺と友達と友達の彼女とその女友達の4人で友達の車に乗ってその廃屋に向かった。
廃屋に続く山道は非常に狭く、車がすれ違えないほど。
両脇には不法投棄されたゴミが散らばり、殺伐とした光景が続いている。
そんな陰鬱とした山道を車で10分弱走ると、件の廃屋が忽然と姿を現すのだった。
「うわ~~~。怖~~~」
ヘッドライトに映し出された廃屋を見て、後部座席から友達の彼女が言った。
廃屋はかなり荒廃しており、窓も破れ、屋根や壁も部分的に崩壊していた。
その瞬間だった。
「え???!!」
突然それまで流れていたカーステレオのカセットテープが止まり、逆回転を始めた。
(今から約20数年前。この時はまだカセットテープだったんです)
「うわ!!なにこれ!!」
社内が一気に騒然となった。
逆回転されたテープが「ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる!」と気色の悪い音を立てている。
「逃げろ!」
友達が咄嗟に車を走らせた。
そして、廃屋が視界から消えた途端、何事もなかったかのようにテープが通常再生され、音楽が流れ始めた。
全員が凍り付いた。
空き地に車を止め、全員で意思確認。
「とりあえず、もう一度行ってみよう」と結論が出た。
今度は最初からカーステレオのスイッチを切って行った。また異変が起きたら怖いし。
やがて先ほど同様、ヘッドライトの中にぼんやりと廃屋の姿が現れた。
「じゃあ、行ってくるわ」
俺は懐中電灯と携帯電話を持ち、車を降りた。
実はこの四人の中で俺以外の三人は非常に怖がりで、なんだかんだ話して、結局俺が一人で様子を見る役回りになってしまっていたのだった。
友達の彼女の女友達に度胸のある所を見せたいという下心も少なからずあった。
車を降り、藪をかき分け、少しずつ廃屋に近づいた。
アイドリングのエンジン音以外何も聞こえない。静かで、不気味だった。
懐中電灯の明かりが廃屋の中をちらちらと照らし、俺はあまり直視しないよう、一歩ずつ廃屋に近づいた。
「あーーーーーーーーーーーー」
!!
確かに、女の人の声だった。山の中、離れたところから女の人が叫ぶような声が聞こえ、俺は思わず足を止めた。
ヤバい、怖い。
怖いけど、まだ廃屋にも入っていない。
車の中からあの子が俺を見てる。
もう少しカッコいいとこ見せたい。
怖さと下心の狭間で猛烈な葛藤があった結果、俺は意を決して廃屋の中へ向かった。
じゃり・・
と割れたガラスを踏みしめる音と共に、俺は戦々恐々と廃屋の中へ踏み入った。
そこはがらんとした板張りの部屋で、家具類は何もなく、天井や壁のベニヤ版が腐って垂れ下がっていた。窓の外は深い闇で、植物が生い茂っている様子が見えた。
うう・・気味悪い・・・
正直めちゃくちゃ怖くてビビっていた。
とりあえず廃屋の中には入った。あとちょっとしたら戻ろう。
そんな風に思っていると、携帯電話が鳴動して死ぬほど驚いた。
着信画面には、車の中にいる例の女の子の名前が表示されていた。
心配してくれたのか!?
俺はちょっと嬉しくなって通話ボタンを押した。
が、電話に出られない。
何度も通話ボタンを押しても着信音が鳴りやまず、電話に出られない。
なんだこれ! どうなってんの!?
だんだん恐怖に駆られ始めた俺は、慌てて廃屋から飛び出した。
その間もずっと携帯電話が鳴り続けている。
その音がまるで霊を呼び寄せようとしているかのように聞こえ、どんどん恐怖心に体が囚われていく。
携帯電話はどのボタンを押しても全く反応せず、着信音も鳴りやまない。
もう嫌だ!
全速力で藪の中を駆け抜け、俺はみんなが待っている車のドアに飛びついた。
そしてまるで嘘のように、その瞬間に携帯電話がぴたりと鳴りやんだ。
全身から汗が吹き出し、みんながそんな俺を恐ろしいものを見るような目で見た。
「なに、どうしたんだよ?」
友人に、俺は今あったことを話した。
すると後部座席からあの女の子が言った。
「・・え? あたし、電話なんかかけてないけど・・」
「いやだって、ケイタイにお前の名前出てたし。ほらこれ」
俺は目を疑った。着信履歴には先ほどの着信が残っていなかった。
「・・・嘘だろ」
念のために彼女の携帯電話も確認したが、確かに彼女の言う通り、俺への発信履歴は残っていなかった。
俺たちは一目散にその廃屋から逃げ帰った。
さほど怖くないけれど、まぎれもなく実体験です。
そして実際に体験すると、めちゃくちゃ怖かったです。
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