
中編
『 八つ当たり 』
匿名 2015年7月7日
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嫁が肝試しに行きたいと言ったので、俺はしぶしぶ付いて行くことになった。
嫁「あそこマジで出るらしーよ」
俺「俺、今日 眠てーんだけど…」
嫁「いいじゃん!今晩だけ!」
最近の嫁はやけにふてぶてしいし、図々しい。
俺の意見など全く聞きやしない。
内心、俺は嫁にムカついていて、肝試しどころじゃなかった。
目的地 近くに着いたとき、どこからともなく見知らぬ女性が近づいて来た。
このクソ暑い夏の日に、なぜか冬に着てそうな白い着物。
しかもやたら髪 長げーし。
正直、季節とミスマッチ過ぎて「この人、感覚 大丈夫か?」と一瞬 熱中症の心配をした。
女「×××××」
女は俺たちに話し掛けてきたが、声が小さ過ぎて聞き取れなかった。
嫁は聞こえていたのだろうか?
なぜか動こうとしない。
というより、全く動こうとしなかった。
なんか震えてるし。
どこまでふてぶてしいんだ。
内心、俺はムカついていた。
そんな嫁をよそに、俺は仕方なくその女性に対応した。
よく見たら頭をケガしているようだ。
俺「何でしょう?俺たちに何か用ですか?頭から血が出てますけど…」
女「…助けて」
俺「は?」
全く意味が分からなかった。
というより、若干 俺はイライラしていた。
俺「あのねー、いきなり何の前ぶれもなく そーゆーこと言われると困るんですよねー。ケガした理由とかも、ちゃんと分かるように言って頂かないと」
女「返して…、返してよ…」
この女、目がイッちゃってるし。
意味の分からんことばかり言う女に、内心 俺はムカついた。
俺「いるんだよなー、こーゆー訳のわからんヤツって。変態っつーか、変人っつーか…。どうせその辺で頭ぶつけたんだろ。ぶつけた衝撃で頭のネジも数本とれたなコリャ」
チラと嫁を見たとき、完全にうわの空だった。
たぶん自分の世界にでも入っていたんだろう。
人任せにしやがってと腹が立った俺は、赤の他人と会話することが面倒くさくなってきた。
ネジがぶっとんでる訳の分からん女なので、適当に応じることに俺は決めた。
女「…見えてるんでしょ」
俺「はぁ?何がよ!?ハッキリ見えとるわ、てめぇの汚ねー血がな!俺が目ぇ悪いように見えんのか!?顔で判断すんな!それって先入観ってヤツじゃねーの!?失礼っしょ、どう考えても!」
俺はだんだん本気でムカついてきた。
ヒートアップしてきた。
熱中してきた。
ある意味、俺が熱中症だった。
女「…連れてって」
俺「ふざけんな!てめぇなんざ連れてく金ねーわ!帰って屁ーこいで クソして寝てろ!」
イラ立ちで体が震えだした。
嫁が震えていたのは こーゆーことか。
そこだけは何とか理解できた。
女「今度はあたしが連れてってあげようか?」
俺「いやいや頼んでねーし!そもそも会話が成りたってないっしょ!『連れてって』の後に『あたしが連れてく』って訳わかんなくね!?よく考えてみ?矛盾してるっしょ!しかも『今度』って(笑)、今まで一度もねーわ、ボケ!」
俺は女をまくし立てた。
女「私は、助けてほしかったの…」
そう言って女は暗がりな方向に消えていった。
俺「バーカ」
最後に言ってやった。
アホな女をよそに、俺はとりあえず先に進むことにした。
すると嫁が、俺の手を掴んで制止した。
俺「なんだよ、肝試し行かねーのかよ!」
嫁「もういい、帰ろ」
俺「お前が行きてーって言ったんじゃねーのかよ!」
嫁「そうだけど…、もういいや…」
なんか嫁は疲れていた。
俺も肝試しなんて興味ないから、さっさと帰りたかった。
嫁「あんた凄いわ…」
俺「え?何が?」
嫁「なんか逆に怖いわ」
何が逆なんだろう?
ムカついてたのが顔に出ていたのだろうか?
俺「そ、そうか?」
嫁「うん、そう」
顔に出ていたのだろう。
帰りの車の中でも、嫁はうわの空だった。
また自分の世界に入っているのだろうか?
ふてぶてしさが半減した気がして、内心 俺は気分が良かった。
嫁「『知らぬが仏』って知ってる?」
俺「そりゃー…、有名だしな」
嫁「だよね…」
嫁の言わんとしていることは分かっている。
たぶん『俺がムカついていたことを知ってしまい、若干 傷付きました』的な感じだろう。
女心は難しい…。
いくらムカツク奴でも八つ当たりしたことは良くなかったと、俺は少しばかり反省した。
眠かった俺は、さっさと帰って屁ーこいで クソして寝ることにした。
後日談:
- 9
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