
友人たちとの肝試しの帰り、私たちは廃墟のビルに立ち寄ることになった。そこはかつて賑やかな劇場だったが、今は朽ち果て、静寂の中に包まれていた。
私が一番前を歩いていると、隅に古いダンボールが目に入った。最初はただのゴミだろうと思い、近づいてみると、内部から「クンクン」と犬の鳴き声が聞こえた。驚いた私は、捨て犬が入っているのかと思い、思わず蓋を開けてしまった。
だが、中を覗き込んだ瞬間、鳴き声はぴたりと止まり、周囲の静けさが一層際立った。ダンボールの中には何もなかった。何が起こったのか理解できず、私は周りを見渡したが、犬の気配はどこにも感じられなかった。
そのまま周囲を探し回って戻ってくると、ダンボール自体が消えているのに気づいた。恐怖に駆られ、友人たちに知らせようとしたが、皆が私を見て不安そうにしているのが分かった。
後で知った話だ。数年前、近所で一匹の犬がこの廃墟で飼い主を失い、寂しく一人で彷徨っていたという。結局、犬は見つからず、地元の人々はその存在を忘れてしまったらしい。私が聞いた鳴き声は、もしかしたらその犬の霊だったのかもしれない。今でもあの夜のことを思い出すと、背筋が凍るような感覚が残る。あのダンボールに何があったのか、いや、何がなかったのか、考えるだけで胸が締め付けられる。
私たちの肝試しは、その後すぐに打ち切られた。誰もあの場所には戻りたくなかったからだ。私たちが見つけたのは、ただのダンボールではなかったのだろう。何かが、確かにそこにいたのだから。
それ以来、冬の夜に廃墟のビルを通るたびに、あの鳴き声が耳に残るのだ。もしかしたら、まだどこかで、あの犬は私を呼んでいるのかもしれない。
夜の静けさが、時折不吉な囁きに変わるのだ。
私は決して、そのビルには近づかないと心に誓った。
しかし、あのダンボールが何だったのか、そして何が起こったのか、真実を知ることはできないまま、ただ恐怖だけが心に残る。
私は今も思い出すたびに、冷たい汗が背中を走る。
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