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長編

おじさんの探しもの

(゜Д゜) 2021年3月18日
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私の通っていた高校の最寄り駅は、なかなか年季の入った無人駅でした。 学校から目と鼻の先なので利便性はよかったのですが、部活を終えて帰る頃には閑散としており、薄気味悪さを感じるような駅でした。 古い駅なので昔からのいろいろな噂話や怪談話がありましたし、利用者以外の人通りはほぼ皆無だったため変質者の情報も多く聞かれました。 これは私が高校1年生の時、部活の先輩から聞いた噂話に関連する体験談になります。 入学して間もなくある運動部に入部しました。 わりと和気あいあいとした部で、先輩後輩の仲も良かったです。 その年の夏休みに部の合宿がありました。 寝泊りは校舎の教室で雑魚寝です。 普段は入れない夜の校舎でテンションが上がり、誰ともなくお約束の怖い話大会が始まりました。 よく聞く都市伝説から、実際体験したという心霊現象など『みんなよく知ってるな~』と思いつつ、怖いので友達に引っ付きながら聞いていました。 そんな中、ある3年生の先輩が「そこの〇〇駅の話なんだけどね…」と学校最寄りの駅の話をし始めました。 時刻は22時頃だったと思います。 集まっていた教室からその駅が見えるので、みんな窓際へ移動して先輩の話を聞くことにしました。 「あの駅で紙袋を持ったおじさんに会うことがあるんだって。その紙袋には大小さまざまなろうそくが入っているらしいんだけど、仏壇とかお葬式で使う…逆三角形みたいな形(イカリ型?)の赤いろうそくらしいの。」 先輩は駅を見つめながらそこまで話すと、少しトーンを落として続けました。 「そのおじさん、『探し物をしているから一緒に探してくれ』って話しかけてきて、一緒に探してあげるとそのろうそくをくれるらしいよ。」 怖いでしょうと言わんばかりに話し終えた先輩でしたが、周りの反応は「え?それだけ?」って感じでした。 確かに不気味だけど、それはただの不審者じゃないのかと…。 有名な話なのか、他の先輩たちは「そんな話だったっけ?」とか「白いろうそくじゃなかった?」などと話していました。 この地域の都市伝説のようなものだったみたいです。 その後も怖い話はしばらく続きましたが、とくに心霊現象が起こったなどという事もなく合宿は終了しました。 それから数か月後。 3年生も引退して2年生主体で部活に励んでいました。 その日も部活が終わり、みんなワイワイとそれぞれ帰路につきました。 私も友人たちと駅へ。 ところが、途中で大事なポケベル(当時は携帯電話などありません)を部室に忘れてしまっていたのです。 1人で戻るのは怖い…でも、ポケベルが無いのは困る。。 時間はそれほど遅くありませんでしたが、辺りはもう真っ暗でした。 他の部活の人たちも家路を急いでいます。 電車が来るまで約5分。 走って往復すれば間に合うかもしれない。 友人たちも付き合ってくれると言ってくれましたが、万が一この電車を逃すと次の電車まで40分以上待たなければならない為「チャチャッと走って取ってくるよ!間に合わなかったら帰ってていいから。」と伝え、先に行ってもらうことにしました。 まだ部室が開いていることを願いつつ全速力で戻りましたが、無情にも部室は真っ暗で鍵がかかっていました。 仕方なく職員室へ行き、顧問の先生に事情を話して部室の鍵を借りると再び部室へ向かいました。 ポケベルを鞄にしまい、部室で時計を確認すると既に電車の発車時刻を過ぎておりガッカリ。 もしかしたら友達が待っていてくれるかもしれない!という微かな期待を胸に、急いで施錠し鍵を返すと、猛ダッシュで駅へ向かいました。 しかし期待虚しく、駅には友人どころか人っ子一人見当たりませんでした。 仕方がないのでたいして明るくもないホームのベンチで単語帳でも見ながら次の電車を待つことにしました。 20分ほどたった頃、友人からポケベルにメッセージが入りました。 『先帰ってゴメン』というような内容でしたので、返信をしようと立上りホームの隅にある公衆電話へ向かおうとしたその時… 「あの…」 わりと近くから男性の声がしました。 声の方を見ると、私からほんの3m程しか離れていない場所に無表情の知らないおじさんが立っていたのです。 人の気配など全く感じなかったので驚きました。 しかもそのおじさん、近くにいるのに輪郭はぼんやりしていて下半身が闇に包まれているようでした。 もともと薄暗い駅ですし、明かりの届きにくい場所に佇んでいた為だと思いましたが、かなり不気味に思い、身構えながら一応「何ですか?」と答えました。 よく見るとおじさんは大きめの紙袋を抱えています。 その時は中身までは見えませんでした。 『うわっ。まさかあの都市伝説の…?』 私はおじさんの返事を待たずに逃げようと思いましたが、改札口はおじさんの後ろ。 つまり、おじさんの脇を通らなくてはなりません。 せめて誰か来てくれ~と念じながらさりげなく距離を取ろうと後退りました。 するとそのおじさんはもう一度「あの…」と声を掛けてきました。 改札まで15mほど。 何とかおじさんの脇を駆け抜けよう…そう思ったときでした。 「探し物をしているんです。大事な……を探しているんです。一緒に探して下さい…。」 何を探しているのかは聞こえませんでしたが、やはり都市伝説の通り何かを探しているようでした。 恐怖心はますます膨らみ、心臓がドックンドックンと大きな音を立てています。 おじさんはじりじりとこちらに近付きながら「大事なものなんです。大事な……を探しているんです。」と繰り返します。 恐怖で動けずにいると、ようやくおじさんの下半身が見えてきました。 おじさんには…左足の膝から下がありませんでした。 でも歩き方は普通で、ピョンピョン跳ねているわけではありません。 足を欠損している方の歩き方とは思えない、本当に自然な動きで近づいて来るのです。 恐怖で足がすくみ逃げることもできず、何故か目を逸らすこともできませんでした。 少しずつ…少しずつ近づいて来るおじさん。 その時、改札口から数人の話声が聞こえました。 利用者が駅へ入って来たようです。 私は安堵し、ただただ「早く!早く来て!!」と心の中で唱えました。 その間にもおじさんは「大切なんです…本当に大切なんです。」とつぶやきながら近づいてきます。 そして、おじさんが私の脇を通りすぎようと並びかけた時、ホームへ数人の学生が入ってきました。 その瞬間、おじさんが私の顔を覗き込んでこう言ったのです。 「私の足…返してください……」 私はそのまま後ろにのめってドンッと尻もちをつき、おじさんは私を通り過ぎて行きました。 私は急いで立ち上がり、振り向かずに端って改札を出ました。 そして遠回りになってしまいますが、10分ほど離れたバス停からバスを乗り継いで帰宅したのです。 翌日その話を友人や先輩たちにしましたが、誰も信じてはくれませんでした。 紙袋の中身は何だったのか、時間が経ってから気になりましたが、それから二度と一人で駅へ行く事はありませんでした。 それから四半世紀が経ち、その駅は綺麗に立て替えられました。 ただ、未だに無人駅ですし、周りに外灯は少ないままです。

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