
長編
山男との夏
匿名 11時間前
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」
「・・・・うん、だと思うけど。あんなにハッキリ幽霊って見えないだろうし」
俺たちは死ぬほど驚き、ビビっていた。
突然真夜中の真っ暗な山の中から全身布に覆われた無言の大きな人間がすぐ横に現れたら、誰だって恐怖を感じるはずだ。
幽霊なのか生きてる人間なのか、それすらわからず、俺たちはその場からしばらく動けずにいた。
「・・・行ってみる?」
Aが言った。町の方へ姿を消したさっきの人間を追うか?と。
いずれにしたって俺たちも町の方へ帰らなきゃならない。俺たちは恐る恐る先ほどの人間が姿を消した道へ向かってバイクを走らせた。
しかし結局その後その人間を見ることはなかった。
「その日は」の話だが。
それから2週間ほど経った夜。
Aから「今すぐ来い!」と電話が入った。
「あいつを見た」と言う。「あいつ」とは当然、2週間前に突然山の中から現れたあの布に覆われた大きな人間のことだ。
あの日以来俺たちは「あいつ」のことを「山男(ヤマオ)」と勝手に呼んでいた。
俺はバイクを飛ばしてAの指定した場所へ向かった。
Aとは近くのコンビニで合流し、Aが山男を見たというその場所へ向かった。
それは前回山男に遭遇した山の入り口からほど近い、畑に囲まれた農道だった。
Aがバイクで走っていたところ、山男がその道を歩いていたのだと言う。
例によって全身を継ぎはぎの薄汚い布で覆っており、表情はおろか性別すら分からない状態だったそうだ。
そしてAが言うには、山男は農道に停まっていた軽トラックに乗り込んだのだと言う。
俺たちがその農道にたどり着くと、果たしてそこにエンジンの切られた軽トラックが一台、ぽつんと停車していた。
「あれだよ。あの中に乗るとこ見たんだ」
俺たちは離れたところにバイクを停め、そっと軽トラの様子を窺った。
暗闇の中、静まり返った白い軽トラのボディ。荷台には木の枝のようなものがこんもりと載っていた。
そのまましばらく見ていたが、山男が出てくる気配も、車が動く気配もない。
「動かないね」
「もしかしたらもう車の中にはいないんじゃないの?」
その可能性が高かったが、車のそばまで行って様子を見る勇気はなかった。
結局その日はそのまましばらく変化がないことを確認し、解散した。
山男の車は軽トラ。ナンバーも控えた。ひとつ収穫だった。
それから数日後。
再び興奮したAから電話がかかってきた。
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