
昨年の冬、心臓の手術を受けるために病院の待合室で待機していた。
麻酔が効いてきたのか、意識が朦朧としてきた。医師たちが周囲で話し合っている声が聞こえるが、何を言っているのかは分からない。時折、冷たい汗が背中を滑り落ち、恐怖が胸を締め付けた。
「自分の意識はまだ残っているのだろうか?」そんな思いを抱えつつ、身体がふわふわと浮いているような感覚に襲われた。次の瞬間、霧の中に包まれた道に立っていた。
周囲には多くの人々が、どこかに向かって歩いている。彼らの顔はどこか無表情で、ただ淡々と進む。私は不安に駆られながら、後ろの方にいた中年の男性に尋ねた。
「ここはどこですか?」
男性は振り返り、目を細めてこう言った。「ここは行き先を決める場所だよ。行くのは船だ。」
言われた通りに進むと、ぼんやりとした明かりの先に小さな船着き場が見えてきた。そこには、様々なチケットが並んでいた。1等、2等、エコノミークラスと書かれ、それぞれの値段が目に飛び込んでくる。
だが、驚愕したのはその値段だった。1等は30万円、2等は10万円、エコノミーは5万円。私の手元には、財布の中の1万円しかなかった。「金がなければ、どこにも行けないのか?」頭の中で考えながら、私は途方に暮れた。
周りの人々は次々とチケットを買い、船に乗り込んでいく。私はその姿を見て、焦燥感に駆られた。自分はここで何をしているのだろう?
その時、ふと明かりが差し込んできて、名前を呼ばれる声が響いた。「〇〇さん、手術が始まります。」
驚いて目を開けると、そこには看護師が立っていた。彼女は優しい微笑みを浮かべて言った。「大丈夫、あなたは生きています。」
その言葉に安心しながらも、私は心のどこかで、あの霧の道と船の行き先が気になって仕方がなかった。あの船は、果たしてどこに行くのだろう?
手術が終わった後、私はそのことを看護師に聞いてみた。すると、彼女は笑いながらこう答えた。「きっと、あの船には、行く人の意思が必要なのよ。」
その言葉が頭の中を巡り、私は再びあの船の行き先を考えてしまうのだった。
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